第一審第一九回公判調書によれば、所論の前記証拠決定は第一審裁判所が同公判においてさきに為した所論証人を公判において取調ぶべき旨の証拠決定を変更したものと解せられるところ、同決定を為すについては、検査官が右証人の申請理由を述べ、その尋問を求めたのに対し、被告人両名及びその弁護人はこれに同意したことが右公判調書によつて明らかであるから、所論証拠決定に際し、重ねて訴訟関係人の意見を聴かず、また尋問事項の告知をしなかつたからといつて、直ちに所論のような訴訟法の違反があると為すことはできない。
公判廷において尋問すべき旨の証人尋問決定を変更し、その裁判所の公判廷外で受命裁判官に尋問させる旨決定するについては訴訟関係人の意見を聴き、尋問事項を告知することを要するか
刑訴法163条,刑訴法297条
判旨
受訴裁判所内において受命裁判官が証人尋問を行った手続に瑕疵がある場合でも、当事者が立ち会い、異議を述べずに反対尋問を行い、後の証拠調べでも異議がなかったときは、その瑕疵は治癒される。
問題の所在(論点)
本来受訴裁判所が直接行うべき証人尋問を受命裁判官に行わせた手続的瑕疵が、当事者の異議なき立ち会いおよび反対尋問等の事情によって治癒されるか。
規範
裁判所が本来の手続に違反して受命裁判官に証人尋問を行わせた場合であっても、①被告人・弁護人が尋問に立ち会い、②手続の施行について異議を述べず、③弁護人が詳細な反対尋問を行い、④その後の公判における証言内容の証拠調べに際しても異議が申し立てられなかった場合には、手続上の瑕疵は治癒されたものと解するのが相当である。
重要事実
第一審裁判所は、第19回公判において、受訴裁判所内で受命裁判官に証人尋問を行わせる旨を決定し、実施した。被告人および弁護人はこの尋問に立ち会い、異議を述べることなく、弁護人は自ら詳細な反対尋問を行った。また、その後に公判で行われた当該証人尋問調書の証拠調べにおいても、訴訟関係人から異議の申し立てはなされなかった。被告人側は、上告審において当該手続の違法を主張した。
あてはめ
本件では、受命裁判官による尋問の決定に対し訴訟関係人が異議を申し立てた形跡がない。尋問当日、被告人および弁護人は立ち会っており、手続の施行に異議を述べるどころか、弁護人は自ら反対尋問を詳細に行っている。さらに、後の公判で調書の証拠調べが行われた際にも異議がなかった。これらの事実に照らせば、当事者の防御権は実質的に保障されており、手続上の瑕疵はもはや問題とすべきではないほどに治癒されたといえる。
結論
受命裁判官による証人尋問の手続に瑕疵があったとしても、被告人側が反対尋問権を行使し、異議なく証拠調べが行われた本件においては、当該瑕疵は治癒されており、違法とはならない。
実務上の射程
刑事訴訟法における「手続的瑕疵の治癒」の理屈を示す典型例である。特に受命裁判官の権限外の尋問など、構成に関する瑕疵であっても、当事者の同意や反対尋問権の行使、その後の公判での異議の欠如といった「追認」的要素があれば、瑕疵を争えなくなるという実務上の運用を支える。
事件番号: 昭和38(あ)1661 / 裁判年月日: 昭和38年12月25日 / 結論: 棄却
原審において、弁護人から弁償に関し、理由を具し書証を添付して弁論再開の請求があつたにかかわらず、原審としては今更証拠の取調のため弁論を再開する必要はないものと認め、何等の決定もせず再開を許さないまま判決を宣告したものであると解される場合には、原審の右措置は正当であつて、原審が再開を許さないで判決するについては、判決宣告…