公判期日外の証人尋問の際の尋問事項は、裁判所が職権で証人を尋問する場合には裁判所が両当事者にこれを知らせるべく(刑訴規則一〇九条)又、一方の当事者の申請による証人を尋問する場合には、その申請をした当事者がその相手方にこれを知らせるべきもの(同一〇八条)であるから、本件において、前記各証人の公判期日外における尋問につき各尋問事項書が被告人に送達された形跡は記録上存しないけれども、証人A以外の右証人はいずれも被告人側の申請にかかるものであること上述のとおりである以上被告人がその不送達の瑕疵を問題とし得るのは右証人Aの尋問についてのみであるが、同証人の尋問には弁護人が立会つており、その供述調書の証拠調に当つても何ら異議が述べられなかつたのであるから、かかる場合においては尋問事項書不送達の瑕疵を違法として上訴することはできないものと解するを相当とする。(昭和二九年(あ)第二一三五号同年九月二四日第二小法廷判決、集八巻九号一五三四頁参照)
公判期日外の証人尋問に際し、あらかじめ被告人に尋問事項を告知しなかつた瑕疵と上訴理由
刑訴法281条,刑訴法158条,刑訴法309条,刑訴規則108条,刑訴規則109条
判旨
公判期日外の証人尋問において尋問事項書の送達を欠く瑕疵があっても、弁護人が尋問に立ち会い、かつ公判期日での証拠調べに際し異議が述べられなかった場合には、当該瑕疵を違法として上訴することはできない。
問題の所在(論点)
公判期日外の証人尋問において、被告人に対し尋問事項書の送達がなされなかった手続上の瑕疵が、上訴理由となる重大な違法にあたるか。
規範
公判期日外の証人尋問において、裁判所が職権で尋問を行う場合には尋問事項を両当事者に通知すべきであり(刑訴規則109条)、一方の当事者の申請による場合には相手方に通知すべき(同108条)とされる。もっとも、これらの通知(尋問事項書の送達)を欠く手続上の瑕疵があったとしても、弁護人が尋問に立ち会い、かつ後の公判期日において当該尋問調書の証拠調べがなされた際に異議が述べられなかったときは、当該手続違背を理由として上訴することは認められない。
重要事実
被告人が出頭した公判期日において証人尋問の日時場所が指定告知された後、職権採用された証人Aを含む複数の証人について、日時場所の変更および尋問実施が決定された。被告人には決定の謄本が適式に送達されたが、職権証人Aの公判期日外尋問に際し、刑訴規則109条に基づく尋問事項書の送達が被告人になされた形跡はなかった。しかし、実際の尋問には弁護人が立ち会っており、その後の公判期日における証人尋問調書の証拠調べにおいて、被告人および弁護人は何ら異議を述べなかった。
あてはめ
本件では、証人A以外の証人は被告人側の申請に係るものであり、被告人が不送達の瑕疵を主張し得るのは職権証人であるAの尋問についてのみである。しかし、証人Aの尋問に際しては、被告人の補助者たる弁護人が立ち会っており、防御権行使の機会は実質的に保障されていたといえる。さらに、その後に開催された公判期日において、当該尋問結果を録取した証拠調書が取り調べられた際、被告人と弁護人の双方がこれに対し何ら異議を述べていない。このような状況下では、尋問事項書の不送達という手続的瑕疵はもはや治癒されたものと解される。
結論
尋問事項書の送達を欠く瑕疵があっても、弁護人が立ち会い、かつ証拠調べにおいて異議がなかった場合には、これを違法として上訴することはできない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟における証拠調べ手続の瑕疵と異議の要否に関する射程を持つ。刑訴法309条の意義を背景に、弁護人の立ち会いと公判期日での黙認(異議なし)があれば、相当程度の手続的懈怠も違法事由として主張できなくなることを示す実務上重要な判断である。
事件番号: 昭和28(あ)4555 / 裁判年月日: 昭和30年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟における検証の実施にあたり、被告人に対し適法な通知がなされており、かつ証人尋問に被告人が立ち会っている場合には、手続上の違法は認められない。 第1 事案の概要:被告人が上告理由において、原審の手続に違法があると主張した事案。具体的には、特定の証人尋問や検証の手続において不備があったと主張し…