判旨
法律の不知は、特段の事情がない限り、故意(犯意)の成立を妨げるものではない。いわゆる法定犯においても、自己の行為が法令に違反することの認識は犯罪の成立に必須の要件ではない。
問題の所在(論点)
刑法38条3項に基づき、法律を知らなかったことが故意(犯意)の成立に影響を及ぼすか。特に、いわゆる法定犯において違法の認識が必要かどうかが問題となる。
規範
犯罪の成立には、自己の行為が法令に違反することの認識(違法性の意識)までは必要とされず、事実の認識があれば足りる。いわゆる法律の不知は、原則として故意を阻却しない。
重要事実
被告人が特定の法令に違反する行為を行った。被告人側は、当該行為が法令により禁止されていることを知らなかったこと(法律の不知)を理由に、犯意(故意)が否定されるべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件において被告人は、単なる法令の不知を主張するに過ぎない。記録上も、単なる不知を超えて故意を否定すべき特段の事情(審理不尽等)は認められない。したがって、法令違反の認識がなかったとしても、客観的な違反事実を認識している以上、犯意の成立を妨げるものではないと解される。
結論
被告人に犯意の成立を認め、有罪とした原判決は妥当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
法定犯・行政刑罰における故意の有無が争点となる場面で、刑法38条3項の原則(法律の不知は罪を犯す意思がないものとすることはできない)を確認するために引用される。実務上は「違法性の意識の可能性」の有無が議論されるが、本判例は単純な不知では免責されないことを端的に示すものである。
事件番号: 昭和28(あ)1024 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の行為が法律に違反することの認識がなかったとしても、それは単なる法律の不知にすぎず、故意(犯意)は阻却されない。 第1 事案の概要:被告人は何らかの行為(具体的な罪名は判決文からは不明)により起訴された。これに対し弁護人は、被告人において当該行為が法律に違反することの認識がなかった旨を主張し…
事件番号: 昭和26(あ)4381 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪の成立において、行為者が具体的にいかなる法令によってその行為が禁止されているかを知らなかったとしても、それ自体は故意の成立を阻却しない。 第1 事案の概要:被告人が、法令によって禁止されている行為を行った。弁護側は、被告人が当該行為を禁止する具体的な法令を知らなかったことを理由に、故意が阻却さ…
事件番号: 昭和26(あ)2878 / 裁判年月日: 昭和27年11月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】故意が成立するためには、具体的にいかなる法令によってその行為が禁止されているかを知る必要はなく、自己の行為が法秩序に違反するものであるという反社会性の認識(違法性の意識)があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人が特定の行為について、それがいかなる具体的な法令によって禁止されているかを知らなかった…