判旨
被告人の行為が法律に違反することの認識がなかったとしても、それは単なる法律の不知にすぎず、故意(犯意)は阻却されない。
問題の所在(論点)
被告人が自己の行為を「法律に違反するもの」と認識していなかった場合(法律の不知)、刑法上の「罪を犯す意思(故意)」が否定されるか。
規範
刑法38条3項に基づき、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできない。すなわち、自己の行為が法的に禁止されていることの認識(違法性の意識)は、故意の成立に必ずしも必要ではなく、法律の不知は故意を阻却しない。
重要事実
被告人は何らかの行為(具体的な罪名は判決文からは不明)により起訴された。これに対し弁護人は、被告人において当該行為が法律に違反することの認識がなかった旨を主張し、犯意(故意)の欠如を理由として上告を申し立てた。
あてはめ
本件において被告人が自身の行為を法律違反ではないと信じていたとしても、それは客観的に存在する禁止規範を認識していなかったという「法律の不知」に該当する。刑法38条3項の原則に従えば、このような認識の欠如は故意の成立を妨げるものではない。したがって、仮に被告人が主張するように違反の認識がなかったとしても、直ちに犯意がないということはできないと解される。
結論
被告人に法律違反の認識がなかったとしても、犯意(故意)は認められ、有罪とされる。
実務上の射程
「違法性の意識」の要否に関する古典的判例である。司法試験においては、故意の体系的地位や違法性の意識の要否(不要説の立場)を論じる際の根拠として用いる。ただし、現在の通説的見解である「責任説(違法性の意識の可能性を要する)」の立場から検討する場合には、本判決が採る「不要説」を前提としつつ、期待可能性の観点等からいかに修正するかという文脈で言及することになる。
事件番号: 昭和28(あ)1625 / 裁判年月日: 昭和29年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律の不知は、特段の事情がない限り、故意(犯意)の成立を妨げるものではない。いわゆる法定犯においても、自己の行為が法令に違反することの認識は犯罪の成立に必須の要件ではない。 第1 事案の概要:被告人が特定の法令に違反する行為を行った。被告人側は、当該行為が法令により禁止されていることを知らなかった…
事件番号: 昭和26(あ)2878 / 裁判年月日: 昭和27年11月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】故意が成立するためには、具体的にいかなる法令によってその行為が禁止されているかを知る必要はなく、自己の行為が法秩序に違反するものであるという反社会性の認識(違法性の意識)があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人が特定の行為について、それがいかなる具体的な法令によって禁止されているかを知らなかった…
事件番号: 昭和26(あ)4381 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪の成立において、行為者が具体的にいかなる法令によってその行為が禁止されているかを知らなかったとしても、それ自体は故意の成立を阻却しない。 第1 事案の概要:被告人が、法令によって禁止されている行為を行った。弁護側は、被告人が当該行為を禁止する具体的な法令を知らなかったことを理由に、故意が阻却さ…