判旨
預金口座の保管金を、共謀の上、銀行機関を通じて自己のために払い戻す行為は、業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
銀行に預け入れられた金銭を、その保管・管理の任にある者が自己のために払い戻す行為について、横領罪が成立するか。
規範
預金者が銀行に預け入れた金銭は、銀行がその所有権を取得するが、預金者は銀行に対して払い戻しを請求し得る法的地位(預金債権)を有する。この場合、預金者が組織の保管金について払い戻す権限を有しつつ、自己の利益のためにその払い戻しを実行したときは、占有の有無を問わず、委託の趣旨に反して自己の領得を図るものとして横領罪(刑法252条、253条)が成立する。
重要事実
被告人は共犯者Aと共謀し、日本電気産業労働組合(電産)本部の保管金を管理していた。被告人らは、銀行機関を通じてこの保管金を自己のために払い戻し、着服した。
あてはめ
被告人はAと共謀した上で、電産本部の保管金を銀行機関を通じて払い戻している。この行為は、本来の委託の趣旨(電産本部のための保管)に背き、あたかも自己の財産であるかのように振る舞って経済的利益を収得する行為に他ならない。したがって、銀行を介した払い戻し手続きによって金銭を自己の支配下に移した時点で、不法領得の意思が発現されたものといえる。
結論
被告人につき、業務上横領罪の成立を認めた原判決を維持し、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、銀行預金の払い戻しによる着服が横領罪を構成することを簡潔に示している。司法試験においては、不法領得の意思の定義や、「占有」の概念を事実上の支配のみならず法律上の支配(預金債権の行使権限)まで含めて解釈する際の論理的根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)506 / 裁判年月日: 昭和29年6月22日 / 結論: 棄却
引用の判例は「大正十年大審院宣告」と上告趣意書に記載されてあるだけで、刑訴規則二五三条の「上告趣意書にその判例を具体的に示さな」い場合に当り、上告理由として不適法である。