判旨
刑事訴訟法362条の「自己の責に帰することができない事由」の存否について、裁判所が期待可能性の有無に言及せずとも、法定期間内に控訴しなかったことが本人の責任によると認定していれば、判例違反には当たらない。
問題の所在(論点)
上訴権回復の要件である「自己の責に帰することができない事由」(刑訴法362条)の判断において、期待可能性の有無を検討し、判断を示す必要があるか。
規範
刑事訴訟法362条にいう「自己の責に帰することができない事由」とは、本人の過失に基づかない客観的な障害を指す。裁判所がこの存否を判断するにあたり、具体的判断において期待可能性の有無という概念を明示的に用いることまでは要しない。
重要事実
抗告人は、有価証券偽造行使、詐欺、同未遂の各被告事件について第一審判決を受けたが、法定の期間内に控訴の申し立てを行わなかった。抗告人は、これが「自己の責に帰することができない事由」によるものであるとして上訴権回復を求めたが、原決定はこれを否定。抗告人は、原決定が期待可能性について判断を示していないことが判例違反であると主張して特別抗告を申し立てた。
あてはめ
原決定は、抗告人が法定期間内に控訴しなかったことが、刑訴法362条にいう自己の責に帰することができない事由によるものではないと明確に認定している。弁護人が主張する「期待可能性」の存否については、原決定が認定した事実の範囲外の事項であり、その判断が示されていないとしても、直ちに判断遺脱や判例違反といった違法が生じるものではない。
結論
抗告人が法定期間内に控訴しなかったことに「自己の責に帰することができない事由」はないとする認定は適当であり、特別抗告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和30(し)5 / 裁判年月日: 昭和30年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上訴権回復の申立てにおいて、被告人が現実に判決の言渡しを知り得なかったとしても、それが被告人やその代理人の責めに帰すべき事由によらないものでない限り、上訴権を回復することはできない。 第1 事案の概要:抗告人は、被告人が刑の言渡しを現実に知り得なかったことについて、被告人及びその代理人の責めに帰す…
上訴権回復の申立事由の検討において、期間徒過の責任を論じる際に「期待可能性」という刑法上の概念をそのまま持ち出す必要はなく、条文上の「自己の責」の有無を客観的事実から評価すれば足りることを示唆している。
事件番号: 昭和42(す)270 / 裁判年月日: 昭和42年9月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上訴権回復の要件である「自己又は代人の責に帰することができない事由」とは、不服申立方法の誤信といった主観的な事情は含まれず、外部的な障害や不可抗力による期間の徒過を指す。 第1 事案の概要:被告人は詐欺被告事件の上告棄却決定を受けたが、異議申立期間を徒過した。被告人は、当該決定に対する不服申立方法…
事件番号: 昭和27(し)28 / 裁判年月日: 昭和27年8月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上訴権回復の要件である「自己又は代理人が責任を負うことのできない事由」とは、不注意等の過失がないことを指し、弁護人の不注意により控訴期間を徒過した場合はこれに当たらない。 第1 事案の概要:被告人Aに対する窃盗被告事件の第一審判決に対し、被告人本人またはその弁護人は、法定の控訴期間内に控訴の申し立…
事件番号: 昭和27(し)16 / 裁判年月日: 昭和27年8月30日 / 結論: その他
大審院のした決定であつても、大審院のその後の決定で既に変更されている以上、右変更前の決定と相反する判断をしたとの主張は、刑訴第四〇五条第三号の上告理由として不適法である。
事件番号: 昭和27(し)2 / 裁判年月日: 昭和27年10月31日 / 結論: 棄却
控訴審の弁護人として選任された弁護士は控訴申立に関しては刑訴三六二条にいわゆる被告人の代人と解すべきものである。