判旨
証拠能力に瑕疵がある証拠が事実認定に用いられた場合であっても、当該証拠を除外した他の証拠のみで認定事実を十分に認められるときは、証拠採用の誤りは判決に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
証拠能力に欠ける可能性がある証拠が事実認定に用いられた場合、その証拠を除いた他の証拠によって事実を認定できるのであれば、当該証拠の採用は「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」となるか。
規範
第一審判決が証拠能力のない証拠を事実認定の基礎とした場合であっても、当該証拠を除外した残りの証拠(爾余の証拠)によって、判示事実を認めるに足りると判断されるときは、訴訟法上の解釈の誤りは「判決に影響を及ぼすべきもの」とはいえず、控訴・上告理由にはならない。
重要事実
被告人の刑事事件において、第一審判決は「Aに対する検察官の供述調書」を事実認定の証拠の一つとして挙示し、有罪判決を下した。これに対し弁護人は、当該調書の証拠能力を認めた原判断に訴訟法上の誤りがあるとして上告した。しかし、一審判決が挙げた他の証拠、特に第一審公判廷における証人Aの供述が存在していた。
あてはめ
仮に、弁護人が主張するように検察官供述調書の証拠能力に関する原判断が誤っていたとしても、本件における第一審判決の判示事実は、当該調書を除外した「爾余の証拠」により認定可能である。特に、一審公判廷で直接なされた証人Aの供述は、証拠能力に問題がある調書を補って余りあるものであり、認定事実を支えるに十分であるといえる。したがって、証拠採用の過程に瑕疵があったとしても、結論に影響はないと解される。
結論
本件一審判決は、問題の証拠を除外しても他の証拠により維持可能であるため、証拠能力に関する判断の誤りは判決に影響せず、上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法410条1項等の「判決に影響を及ぼすべきこと」の判断において、証拠の排除があってもなお事実認定が揺るがない場合の相対的理由を論じる際に用いる。実務上、証拠能力の議論をする際に、あてはめの最後で「仮に証拠能力が否定されても爾余の証拠で認定可能」という予備的抗弁の論理構成として参照される。
事件番号: 昭和28(あ)2543 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白が存在する場合であっても、その自白を補強するに足りる証拠を総合して犯罪事実を認定することは、憲法および刑事訴訟法の要請に反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が自白をしている事案において、第一審判決は被告人の自白のほかに、その自白を補強するに足りる複数の証拠を挙示し、これらを総…