かりに所論弁護人選任届に所論のような瑕疵(註、被告人氏名の弁護人による代書)がありとしても、右弁護人は何らの異議なく原審公判に立ち会い弁論をしており、また、その際被告人も、これに関し何ら異議を述べなかつたことは、記録上明らかであるから、右の瑕疵はこれによつて治癒せられたと解すべきである。
弁護人が被告人の氏名を代書してした弁護人選任届の効力
刑訴法30条,刑訴規則18条,刑訴規則61条
判旨
弁護人選任届に瑕疵があったとしても、当該弁護人が異議なく公判に立ち会い弁論を行い、被告人も異議を述べなかった場合には、当該瑕疵は治癒される。
問題の所在(論点)
弁護人選任届に瑕疵がある場合において、当該弁護士による弁護活動が有効になされたと評価し、瑕疵の治癒を認めることができるか。
規範
弁護人選任手続(刑訴法30条、刑訴規則17条・18条等)に瑕疵がある場合であっても、弁護人及び被告人の双方に瑕疵を争う意思がなく、実質的な弁護活動がなされたと認められる特段の事情があるときは、当該手続上の瑕疵は治癒されるものと解する。
重要事実
本件において、弁護人が提出した弁護人選任届には所定の記載事項等に関する瑕疵が存在していた。しかし、当該弁護人は原審の公判期日に何ら異議を述べることなく立ち会い、被告人のために弁論等の弁護活動を遂行した。また、被告人自身も、当該弁護人の選任や弁護活動に関して、公判を通じて一切の異議を申し立てなかった。
あてはめ
本件では、選任届の瑕疵に拘わらず、弁護人は原審公判に立ち会い、弁論を実施している。この事実は、形式的な届出の不備を補って余りある実質的な弁護権の行使が行われたことを示すものである。加えて、被告人自身がこれに異議を述べていない以上、被告人の防御権の保障という観点からも不利益は認められない。したがって、弁護士及び被告人の黙示の容認により、選任手続の瑕疵は治癒されたといえる。
結論
弁護人選任届に瑕疵があっても、異議なく弁論がなされた場合には瑕疵は治癒されるため、当該弁護活動に基づく判決に違憲・違法の不備はない。
実務上の射程
手続的瑕疵の治癒に関する一般的法理を示すものである。もっとも、弁護人選任という被告人の重要な権利に関わるため、無権代理的な状況や被告人の意思に反する場合まで広く治癒を認める趣旨ではない点に留意すべきである。答案上は、弁護人の訴訟行為の有効性を争う場面で、追認や異議の不在を根拠とする治癒の論理として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)2654 / 裁判年月日: 昭和28年3月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判に繋属する前に提出された弁護人の選任届であっても、刑事訴訟法及び同規則の規定に照らし、有効なものとして取り扱われる。 第1 事案の概要:被告人は公判に繋属する前に弁護人の選任届を提出していた。上告審において、弁護人は当該選任届が「公判に繋属する前」に提出されたものであることを理由に、適当な弁護…