判旨
弁護人選任届に代筆の事由が附記されていない刑事訴訟規則上の瑕疵があっても、当該弁護人が公判で異議なく弁論し、被告人も異議を述べていない場合には、当該選任届は無効ではない。
問題の所在(論点)
弁護人選任届における被告人の署名が代筆であり、かつ刑事訴訟規則61条2項所定の代書事由の附記を欠く場合に、当該弁護人選任は無効となるか。
規範
弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を提出してしなければならない(刑事訴訟法30条、刑事訴訟規則18条)。署名が代書による場合にはその事由を附記すべき(規則61条2項)とされるが、この附記を欠く書面によって選任された弁護人が異議なく公判活動を行い、被告人もこれに異議を述べていない場合には、当該選任手続の瑕疵は治癒され、選任届は有効なものとして取り扱われる。
重要事実
被告人の弁護人選任届および主任弁護人届には被告人の氏名が記載されていたが、筆跡対照の結果、被告人の自署ではなく弁護人による代書であると認められた。当該届出書には刑事訴訟規則61条2項が定める代書の事由の附記がなかった。一方、当該弁護人は原審の第1回公判期日に出頭して異議なく弁論を行っており、被告人は適法に召喚されながら出頭せず、選任に関しても何ら異議を申し立てていなかった。
あてはめ
本件弁護人選任届には代書事由の附記がなく規則違反の瑕疵がある。しかし、選任された弁護人自身が公判期日に出頭し、何ら異議を述べることなく弁護人として弁論活動を行っている事実に照らせば、選任の意思自体は存在していたと認められる。また、被告人側からも、適法な公判召喚を受けながら特段の異議が申し立てられていない以上、選任の事実を追認していると評価できる。したがって、手続上の瑕疵は実質的な弁護権の保障を損なうものではなく、無効とは解されない。
結論
代書事由の附記を欠く瑕疵がある弁護人選任届であっても、弁護人および被告人が異議なく公判手続に関与している場合には無効ではない。
実務上の射程
手続規定(刑事訴訟規則)違反があったとしても、訴訟当事者の追認や異議の欠如といった実態がある場合には、訴訟経済や手続の安定性の観点からその効力を否定しないという実務上の判断枠組みを示している。答案上は、弁護権の不当な侵害がないことを論証する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)130 / 裁判年月日: 昭和26年6月8日 / 結論: 棄却
弁護人が被告人の氏名を代書して為した弁護人選任届は法令に違反する瑕疵あるものであるが、右弁護人が異議なく公判に立会い弁論をなし被告人からも何等の異議がなかつたときは右弁護届を無効と断ずることはできない。