判旨
刑事訴訟において二重の危険の禁止(憲法39条)とは、一審から終末に至るまでを継続的な一つの状態と解すべきであり、控訴・上告等の上訴手続は単一の危険が継続しているにすぎない。
問題の所在(論点)
第一審で一度判決が下された後に控訴・上告の手続が継続することが、憲法39条の「二重の危険」の禁止に触れるか。また、被告人が他者の依頼により犯行に及んだ場合に、捜査官による犯意の誘発があったといえるか。
規範
同一事件における訴訟手続は、その開始から終末に至るまで一の継続的状態と見るべきである。したがって、訴訟のいかなる段階においても唯一の危険があるのみで、一審の手続も控訴の手続も同じ事件においては継続せる一つの危険の各部分たるにすぎず、二重の危険というものは存在しない。
重要事実
被告人らは麻薬の所有者の依頼により、その売りさばきのために奔走したとして起訴された。一審等の手続を経て上告に至る過程で、弁護人は「一審判決後の手続の継続は二重の危険にあたり憲法39条に違反する」旨、および「捜査官による犯意の誘発(おとり捜査)があった」旨等を主張して争った。
あてはめ
二重の危険については、判例の示す「継続的危険説」に基づき、上訴手続は開始から終末までの一連の過程であるため、違憲の主張は当たらない。犯意誘発については、原判決の認定によれば、被告人らは麻薬所有者の依頼によって自ら売りさばきに奔走したのであって、捜査関係者の行為によって初めて犯意を誘発されたものではないと判断される。
結論
被告人らの上告を棄却する。同一事件の審級の継続は二重の危険にはあたらず、また本件では犯意の誘発も認められない。
実務上の射程
憲法39条の二重の危険の解釈として、日本の刑事訴訟が「継続的危険説」を採っていることを示す基本判例である。答案上は、検察官上訴の合憲性や審級の継続を論じる際の前提として使用する。また、おとり捜査に関しては「犯意誘発型」に該当するか否かの事実認定の例として参照される。
事件番号: 昭和29(あ)2559 / 裁判年月日: 昭和36年8月1日 / 結論: 棄却
論旨は、原判決の憲法一三条違反を主張するけれども、実質は、囮捜査によつて誘発された麻薬の所持を有罪としたことを避難するに帰する。しかし「他人の誘発により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合に、わが刑事法上その誘惑者が場合によつては教唆犯又は従犯として責を負うことのあるのは格別、その他人である誘惑者が一私…