原判決が所論一審第一回公判調書中被告人の供述として判示同旨の記載を採証したこと及び右公判調書中に所論空欄部分があることは所論のとおりである。しかし所論被告事件解示に対する被告人の陳述部分が空欄であることは、被告事件の解示に対し被告人が何等記載すべき陳述をしなかつたものと解し得られるのであつて、所定手続の記載として違法はない。
被告事件の解示に対する被告人の陳述部分が空欄であることと旧刑訴法第一三四条の手続の履践
旧刑訴法64条,旧刑訴法134条,旧刑訴法345条
判旨
公判調書の「被告事件の解示に対する被告人の陳述」欄が空欄であっても、それは被告人が何ら陳述をしなかったことを意味し、所定の手続の記載として適法である。
問題の所在(論点)
公判調書における「被告事件の解示に対する被告人の陳述」欄の空欄が、刑事訴訟法上の作成手続として違法となり、証拠能力に影響を及ぼすか。
規範
公判調書の記載において、特定の事項に対する供述等の欄が空欄となっている場合であっても、それが当該手続において特段の供述等がなされなかったことを示すものと合理的に解釈できるのであれば、記載手続として違法ではない。
重要事実
第一審の第一回公判調書において、被告事件の解示(起訴状の朗読等)に対する被告人の陳述部分が空欄となっていた。原判決は、この公判調書における被告人の供述記載を証拠として採用したが、上告人は、空欄がある以上は調書作成手続が違法であり、証拠能力が否定されるべきであると主張した。
あてはめ
本件において、被告事件の解示に対して被告人が特段の陳述を行わなかった場合、調書の当該箇所を空欄にすることは「被告人が何ら記載すべき陳述をしなかった」という事実をありのままに反映していると解される。したがって、空欄の存在をもって直ちに所定の手続に違反する不備があるとはいえない。
結論
本件公判調書の記載に違法はなく、これを証拠として採用した原判決に憲法違反や訴訟手続の法令違反は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
公判調書の形式的な空欄が直ちに調書の無効(証拠能力の喪失)を意味しないことを示した。答案上は、調書の正確性や作成手続の適法性が争われる場面で、実質的に手続の内容を記録しているといえるかという視点で活用できる。ただし、本判決は旧法下の事案であり、現行法下での冒頭陳述等の権利告知手続との関係では慎重な検討を要する。
事件番号: 昭和29(あ)3632 / 裁判年月日: 昭和30年4月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官事務取扱検察事務官が作成した供述調書について、判決書において「検察官に対する」ものと表示したとしても、それが当該事務官に対する調書を指すことが明瞭であれば、訴訟手続上の瑕疵として上告理由にはならない。 第1 事案の概要:本件において、検察官事務取扱検察事務官であるAが作成した供述調書が存在し…