判旨
物の所持を内容とする罪の認定において、証拠として所持された物件が現存していることは絶対の要件ではない。人証や書証といった物件以外の証拠によって、犯罪事実を認定することは許容される。
問題の所在(論点)
物の所持を構成要件とする罪の認定において、所持された物件が証拠として現存していることが必要か(いわゆる「現物の存在」が事実認定の絶対的要件となるか)。
規範
特定の物件の所持を構成要件とする犯罪において、当該物件が現存し、かつそれが証拠として提出されていることは、事実認定上の不可欠な要件ではない。裁判所は、自由心証主義に基づき、人証や書証等の代替的な証拠によって当該物件の所持という犯罪事実を認定することが可能である。
重要事実
被告人は昭和22年政令第165号違反(物の所持を内容とする罪)に問われた。原審は、所持された物件自体の現存を確認することなく、被告人自身の供述、共犯者の供述、および証人に対する尋問調書等の人証・書証のみを証拠として犯罪事実を認定し、有罪を言い渡した。これに対し弁護人は、物の現存なしに人証等のみで認定することは虚無の証拠による断罪であると主張して上告した。
あてはめ
本件のような物の所持を内容とする罪であっても、物件の現存を認定の絶対的要件とすべき法的根拠はない。原審において、被告人の公判供述、共犯者の供述、証人尋問調書といった証拠が適法に提出されており、これらの証拠を総合して所持の事実を認定することは、証拠の取捨選択および事実認定に関する裁判所の裁量の範囲内である。したがって、物件それ自体が証拠として存在しなくても、他の証拠によって事実を認定した手続に違法はない。
結論
物の所持を内容とする罪の認定に、物件の現存は絶対の要件ではない。物件以外の証拠(人証・書証)による認定も適法である。
事件番号: 昭和25(あ)3164 / 裁判年月日: 昭和27年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が供述者の所在不明を判断するに際しては、特定の書面の記載のみに拘束されることなく、諸般の事情を調査した上で総合的に決定すべきである。 第1 事案の概要:被告人は所持罪等の容疑で起訴された。第一審において、証人Aの供述録取書等を証拠とするに際し、裁判所はAが所在不明であると判断した。これに対し…
実務上の射程
証拠物件が廃棄・散逸した場合であっても、供述証拠等により立証が可能であることを示す。実務上は、違法薬物や禁制品の所持事件等において、現物が押収されていない場合や処分された後でも、目撃証言や自白等の補強証拠があれば事実認定が可能であるとする論拠として機能する。
事件番号: 昭和25(れ)1767 / 裁判年月日: 昭和26年3月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」とは、対象物を自己の事実上の支配内におくことを意味し、その具体的態様まで判示する必要はない。また、刑の執行猶予を付すか否かは事実審裁判所の広範な自由裁量に属する。 第1 事案の概要:被告人は、昭和22年政令165号に違反する罪(具体的な対象物は判決文からは不明)に問われた。一審およ…
事件番号: 昭和26(あ)284 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」の概念については、物の事実上の支配を意味するものであり、原審の解釈に誤りはない。また、被告人の主張する免責事由が認められない以上、当該所持行為を罰することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は軍票(軍用手票)を所持していたとして起訴された。被告人は、当該軍票を所持するに至った経…
事件番号: 昭和25(あ)435 / 裁判年月日: 昭和25年11月21日 / 結論: 棄却
論旨は、本件起訴状には別紙目録記載とありながら目録の添附がなく、いかなる事実が起訴されたのか解らないのであるから、かゝる起訴に基く審判は憲法第三一条に違反するというのである。記録を調べてみると、起訴状の末項には契印の跡があるし、また第一審公判での起訴状朗読に対し被告人はボストンバックにつき弁解していることからみても、起…
事件番号: 昭和24(れ)1034 / 裁判年月日: 昭和24年12月6日 / 結論: 破棄差戻
一 本件は昭和二二年政令第一六五號連合國占領軍その将兵又は連合國占領軍に附屬し若くは附随する者の財産の收受及び所持の禁止に關する件第一條違反として不法收受の事實につき起訴したものであることは記録上明らかである。そして右不法收受の公訴事實には不法收受の實事を包含するものであるから不法收受事實について起訴された以上は、不法…