論旨は、本件起訴状には別紙目録記載とありながら目録の添附がなく、いかなる事実が起訴されたのか解らないのであるから、かゝる起訴に基く審判は憲法第三一条に違反するというのである。記録を調べてみると、起訴状の末項には契印の跡があるし、また第一審公判での起訴状朗読に対し被告人はボストンバックにつき弁解していることからみても、起訴状には当初右ボストンバック等を記載した別紙目録が添附されていたのが公判の審理を経た後に脱落したものと思われる。公判提起の手続は、公訴の提起に際して所定起訴状にの要件が記載されていた以上、有効であると解さなければならない。
起訴状に別紙目録記載とありながら目録の添附がない場合と訴提起の効力
憲法31条,刑訴法256条
判旨
公訴提起の有効性は起訴状に所定の要件が記載されていたか否かで判断され、一部の目録が欠けていても日時、場所、方法等で罪となるべき事実が特定されていれば、刑訴法256条の記載要件を満たし有効である。
問題の所在(論点)
起訴状に詳細を記した別紙目録の添付がない場合、公訴事実が特定されていないとして、刑訴法256条3項違反により公訴提起の手続が無効となるか。
規範
公訴提起の手続は、公訴の提起に際して起訴状に所定の要件が記載されていた以上、有効である。起訴状に「別紙目録」の添付がない場合であっても、公訴事実の記載により、日時、場所、方法等をもって「罪となるべき事実」が他の事実と区別できる程度に特定されているのであれば、刑訴法256条の記載要件を満たす。
重要事実
被告人は連合国占領軍財産不法所持罪で起訴されたが、起訴状には「別紙目録記載の物資」とありながら目録の添付がなかった。しかし、起訴状には日時(昭和24年1月7日)、場所(東京都港区所在省線a駅前付近)、行為(煙草その他物資の所持)が記載されており、被告人自身も第一審で対象物(ボストンバッグ)について弁解を行っていた。当初は目録が添付されていたが、審理中に脱落した可能性も認められた。
事件番号: 昭和25(あ)3164 / 裁判年月日: 昭和27年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が供述者の所在不明を判断するに際しては、特定の書面の記載のみに拘束されることなく、諸般の事情を調査した上で総合的に決定すべきである。 第1 事案の概要:被告人は所持罪等の容疑で起訴された。第一審において、証人Aの供述録取書等を証拠とするに際し、裁判所はAが所在不明であると判断した。これに対し…
あてはめ
本件起訴状には「別紙目録」の物理的添付が欠けていた可能性があるが、公訴事実として日時・場所が具体的に特定されている。また、対象物についても「煙草その他の物資」と示されており、これらは一罪の関係にある。これらによれば、被告人の防御の対象となるべき事実が他の事実から識別可能な程度に特定されているといえる。現に被告人は第一審において対象物につき具体的な弁解を行っており、防御上の実質的な不利益も生じていない。
結論
本件起訴状は刑訴法256条に定める記載要件を満たしており、公訴提起の手続は有効である。
実務上の射程
起訴状の記載における事実の特定(識別機能)の程度を示す。目録の欠落という形式的不備があっても、本文の記載で日時・場所・方法が特定され、被告人の防御に支障がなければ有効と判断される。実務上、訴因の特定が争われる事案での限界事例として参照される。
事件番号: 昭和26(れ)534 / 裁判年月日: 昭和26年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物の所持を内容とする罪の認定において、証拠として所持された物件が現存していることは絶対の要件ではない。人証や書証といった物件以外の証拠によって、犯罪事実を認定することは許容される。 第1 事案の概要:被告人は昭和22年政令第165号違反(物の所持を内容とする罪)に問われた。原審は、所持された物件自…
事件番号: 昭和25(れ)1554 / 裁判年月日: 昭和26年2月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書に公開を禁じた旨の記載がない限り、公判は公開して行われたものと解すべきである。また、被告人が公判廷で一審判決の事実関係を認めた供述は、その事実を認定する適法な証拠となり得る。 第1 事案の概要:被告人らは、窃取された物件が連合国占領軍の財産であることを争い、原審の事実認定に証拠がないと主張…
事件番号: 昭和25(あ)1013 / 裁判年月日: 昭和25年11月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状に記載された罰条が誤記であっても、起訴状冒頭に正しい対象事件が明示され、単なる数字の書き間違いに過ぎない場合には、起訴の効力を妨げるような法令違反には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が昭和22年政令第165号違反の罪で公訴を提起された際、起訴状の冒頭には「昭和22年政令第165号違反被…
事件番号: 昭和24(れ)2741 / 裁判年月日: 昭和25年3月16日 / 結論: 棄却
政令第一六五號違反の罪は、占領軍物資であることを認識してこれを買受ける場合に成立し、賍物故買罪は賍物であることを認識してこれを買受ける場合に成立する。この二つの認識が同時に存在する場合には二つの罪が成立するが、その中一つの認識しか存在しない場合には一つの罪のみが成立することは當然である。この兩罪が起訴された場合において…