政令第一六五號違反の罪は、占領軍物資であることを認識してこれを買受ける場合に成立し、賍物故買罪は賍物であることを認識してこれを買受ける場合に成立する。この二つの認識が同時に存在する場合には二つの罪が成立するが、その中一つの認識しか存在しない場合には一つの罪のみが成立することは當然である。この兩罪が起訴された場合において、賍物故買罪を無罪としながら、政令第一六五號違反の罪を有罪としたからといつてそれだけで所論のように實驗則に反すると認むべき理據はどこにも存在しないのである。
賍物故買罪と昭和二二年政令第一六五號違反罪
刑法38條1項,刑法256條,昭和22年政令165號1條
判旨
ある行為が複数の犯罪の構成要件に該当し得る場合、それぞれの罪の成立は各構成要件的充足性(特に故意の有無)に基づき個別的に判断される。占領軍物資の買受けと贓物故買が共に問題となる事案において、一方の認識のみが認められる場合には、その認識に対応する罪のみが成立する。
問題の所在(論点)
同一の買受け行為について、一罪(政令違反)の故意を認めつつ、他罪(贓物故買罪)の故意を否定して一方のみを認めることが、論理法則や経験則に反し許されないのではないか。
規範
特定の行為について複数の罪名が起訴された場合、各罪の成立は客観的構成要件の充足に加え、各罪に対応する具体的な犯意(認識)の有無によって個別に判断される。性質の異なる複数の認識が同時に存在すれば併合罪等の関係になり得るが、一方の認識のみが認められる場合には、その一方の罪のみが成立し、他方は不成立となる。
重要事実
被告人が占領軍物資を買い受けた行為について、政令第165号違反(占領軍物資の不法譲受等)と贓物故買罪の二つの罪で起訴された。原審は、被告人において「占領軍物資であること」の認識は認めたが、「贓物(盗品等)であること」の認識については認められないとして、政令違反のみを有罪とし、贓物故買罪については無罪とした。これに対し、弁護人が両罪の成否に関する判断の矛盾を理由に上告した事案である。
事件番号: 昭和24(れ)1728 / 裁判年月日: 昭和25年7月13日 / 結論: 破棄自判
一 第一審判決は、昭和二三年政令第一六五號違反の罪と古物商取締法違反の罪を、想像的競合をなす一罪として重い政令違反罪の刑によつて、懲役一年及び罰金三千圓を言渡した。これに對し第二審判決は右二個の罪を併合罪と見て所論のような各別の刑を併科したのである。しかしながら、第二審の罰金刑の合算額は第一審の罰金額より五千圓だけ多く…
あてはめ
政令第165号違反の罪は「占領軍物資であること」を認識して買い受けることで成立し、贓物故買罪は「贓物であること」を認識して買い受けることで成立する。本件において、被告人は当該物資が占領軍のものであるとは認識していたが、それが盗品等の贓物であるとの認識までは有していなかったと解される。このように、一方の対象(占領軍物資)に対する認識があり、他方の対象(贓物)に対する認識が欠けている場合には、認識が存在する罪のみが成立するのが当然の法理である。したがって、贓物故買を無罪とし、政令違反のみを有罪とした原判断に不合理な点は認められない。
結論
本件のように認識の内容が異なる場合、一方の罪のみを有罪とし、他方を無罪とすることは適法である。
実務上の射程
数個の構成要件が重なり合う事案において、故意(認識)の対象を峻別して認定すべきことを示した。答案上は、客観的に同一の行為が複数の罪に触れる可能性がある場合でも、故意の検討においては、各罪の構成要件要素ごとに認識の有無を個別具体的に検討すべき根拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)956 / 裁判年月日: 昭和24年5月18日 / 結論: 破棄差戻
一 一事不再審の原則は判事判決の既判力の一作用に外ならない。元來判決の既判力というものは一旦判決によつて一定の法律關係(刑罰權又は私權等)の存否が確定された以上原則として、爾後は法律上有効にこれを變動せしめないということをその本質とするのである。 二 民事においては裁判所は判決により確定された法律關係については、その判…
事件番号: 昭和26(あ)1721 / 裁判年月日: 昭和27年11月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の法律が、立法目的、保護法益、および構成要件を異にする場合、それらに違反する一個の行為は、刑法54条1項前段の観念的競合(一個の行為にして数個の罪名に触れる場合)として処断される。 第1 事案の概要:被告人Aは、連合国占領軍の財産である石油製品を不正に扱ったとして、昭和22年政令第165号(連…
事件番号: 昭和25(れ)1118 / 裁判年月日: 昭和25年10月26日 / 結論: 棄却
一 物の所持とは人がその実力支配下に物を保管する行為をいうのであるから、人が物を保管する意思をもつてこれに適応する実力支配関係を多少の時間継続して実現する行為をすれば、それによつて物の所持は成立するのである。そして一旦成立した所持が爾後存続するためには、その所持人が常にその物を所持することを意識している必要はないのであ…
事件番号: 昭和23(れ)2115 / 裁判年月日: 昭和24年6月7日 / 結論: 棄却
原判決は、明らかに「連合國占領軍兵士から同兵士の財産であるサツカリン」を買受け又は販賣の斡旋を依頼せられ受取り、所持した事實を認定したものであるから、該サツカリンが前記政令第一條に掲げる財産中に包含されていることは毫も疑いがない。