一 一事不再審の原則は判事判決の既判力の一作用に外ならない。元來判決の既判力というものは一旦判決によつて一定の法律關係(刑罰權又は私權等)の存否が確定された以上原則として、爾後は法律上有効にこれを變動せしめないということをその本質とするのである。 二 民事においては裁判所は判決により確定された法律關係については、その判決に接着する口頭辯論終結後の事由によるのでなければ、確定判決の趣旨と異る裁判をなすことができないという裁判所に對する拘束力としての形であらはれている、だから當事者は確定判決を經た法律關係についても、新たな事由に基ずかなくても、更に重ねて訴を提起し得るのであり裁判所は、かかる訴と雖もこれを不適法として却下することはできない。この場合裁判所は確定判決の趣旨を尊重して、その内容をそのまゝ裁判の基礎として各場合の事情に適合する判決を爲すまでのことなのである。一例を舉ぐれば後訴が給付の訴であり、その原告が、給付の訴であつた前訴の原告であり、しかもその確定判決において、勝訴していた場合にあつては、特別の事由―記録の焼失による確定判決原本の滅失というような事由―のない限り、既に確定の給付判決を得ているのであるから保護の利益なきものとして請求棄却の判決を爲すべく又敗訴していた場合にあつては請求權の不存在が既に確定されているのであるから、新訴についても再び請求棄却の判決を爲すの外はないのである。 三 然るに刑事においては、公訴は獨り檢事のみがこれを提起するものであるから確定判決を經た事件については有効に再起訴ができないものとし、又裁判所もこれについては免訴裁判を爲すべきものとさえして置けば確定判決の既判力は維持せられるのであり、それに人權擁護の意味も加わり、判決の既判力も民事の場合とその姿を變えて一事不再理の原則という形をとつたのである。だから一事不再理の原則は判決の既判力の一作用に過ぎない。 四 刑事においては人權擁護の見地から檢事は一罪の一部について起訴を爲し他の一部についてはこれが公訴を他日に保留して置くというような措置をとることが許されないと解されている。所謂公訴不可分の原則というのがそれである。 五 所持というような繼續する状態が處罰される犯罪にあつては、一回の行爲によつて完結し得る即時犯例えば窃盗罪のような犯罪と異り、時間的關係においても一罪の一部ということが考えられるのである。すなわち窃盗罪の場合前掲設例のように衣類の窃盗と金錢の窃盗とに區分とすることを幅員的關係の區分というならば、所持罪の場合あつてはかかる關係の區分の外に、延長的關係の區分ともいうべきものが考えられるというのである。 六 刑事判決はその基本となる辯論時における既存の犯罪事實に基ずく國家刑罰權の存否を確定するものであるから、判決の既判力も亦當然にかかる刑罰權の存否の確定に限界せられなければならない。そして一事不再理の原則は判決の既判力の一作用に外ならないのであるから、この原則の適用せられる範圍も亦判決の基本となつた既存の犯罪事實に限定せられなければならないのである。すなわち、一事不再理の原則の適用に關しては、確定判決を限界として一罪の一部が延長的關係において區分せられるということになるのである。 要するに、問題は繼續する状態を内容とする所持罪の特殊性に關連するのである。 七 物の所持とは、人が物を保管する實力支配關係を内容とする行爲である。人が物を保管する意思を以てその物に對し實力支配關係を實現する行爲をすれば、それによつて物の所持は開始される。そして一旦所持が開始されれば爾後所持が存續するためには、その所持人が常にその物を所持しているということを意義している必要はないのであつて苟くもその人とその物との間にこれを保管する實力支配關係が持續されていることを客觀的に表明するに足るその人の容態さえあれば所持はなお存續するのである。だから所持は人が物を保管するためその物に對して實力支配關係を開始する行爲と、その實力關係の持續を客觀的に表明する客態とから成り立つているというべきである。 八 人が多数數の物を同時に所持する場合、人と物との間にその物の個數に相當するだけの實力支配關係が存在することはもとより多言を要しない。しかし所持を行爲乃至容態として(これを開始する行爲とこれを持續する容態として)觀察するとき、その個數は必ずしもその物との間に存在する實力支配關係の個數すなわち物の個數と一致するとは限らない。それは一個の所持という行爲乃至容態によつて二個以上の物が包括的に實力支配關係の下に置かれ得るからである。さりとてまた同一人が同時に數個の物に對し實力支配關係を有するのであるから、常に必ず一個の所持しかあり得ないともいえない。それは所持という同種の内容を有する同一人の二個以上の行爲が同時に存在することがあり得るからである。 九 所持という行爲乃至容態が一個あるのか、數個あるのかを決定するのは、必ずしも人と物との間に存在する實力支配關係にあるのではなく、その行爲乃至容態そのものの形態が社會生活上有する個別性的意義にあるといわなければならない。そしてこの社會生活上における行爲の個別性的意義はかかる數的衡量を必要ならしめる社會生活上の要求に立脚して殊に所持を犯罪として觀察する場合においては、その刑罰法規手續規定等の立法の目的に立脚してのみ、正當に理解し得るのである。だから所持の個別性を決定せんとするにも、かかる觀點に立つてその行爲乃至容態を内心的物理的、時間的、空間的關係はもとよりその他各場合における諸般の事情に從つて詳細に考察して、通常人ならば何人も首肯するであらうところ、すなわち社會通念によつて、それが人と物との間に存する實力支配關係を客觀的に表明するに足る個別性を有するか否かを究め、そこに一個の所持があるか、數個獨立の所持があるかを決定しなければならない。 一〇 更にまた同日以後第二事件物件につき、新に別個の所持が開始されたものと認められ得るとしても、その所持罪が第一事件物件の所持罪と連續犯の關係にあつたと認められるならば、第一事件の判決の既判力が右第二事件物件の所持罪にもその効果を及ぼすべきであらうことは勿論である。しかし、この場合においてはその間刑法の一部改正によつて昭和二二年一一月一五日以後は連續犯の認められなくなつていることに留意すべきであつて、假りに第二事件物件に對する新所持罪の同日前の行動について連續犯に關する舊規定が適用せられる結果、第一事件の判決の既判力がその効果を及ぼすものとせられるようなことがあつても、同日以後なお依然として該所持が意識して繼續せられている限り、その繼續犯たる性質上、たとえ、それが一個の行爲の一部であるとしても、獨立した一個の犯罪と同様、反社會性ある行動としての存在價値を具有しているのであるから、法律が連續一罪として處斷することを廢止した以後の行動については、これを連續犯と認めらるべき他の一部から獨立して處罰の對象となし得るものと解するのが相當であろう。從つて當該部分の行動に關しては不告不理の原則が適用せられ、假りに第一事件當時裁判所において、たまたま、これを廢見したとしても、公訴の對象とせられていなかつた關係上、これを處斷し得なかつたのであり、これと同時に反面、一事不再理の原則はその適用を見ないこととなるから、第一事件の判決の既判力はその効果を及ぼすべきでないといわざるを得ない。(そして本件公訴は右連續犯の廢止せられた日以後の所持のみをその對象としているのである) 一一 憲法第三九條後段の規定は、繼續犯のような犯罪において、確定判決後又は刑罰法規の改正實施後なお意識的に獨立した犯罪と目せらるべき行動を敢えて繼續するものに對してまでその刑事上の責任を問わないというような不合理を要求する筈がない。
事件番号: 昭和24(れ)2741 / 裁判年月日: 昭和25年3月16日 / 結論: 棄却
政令第一六五號違反の罪は、占領軍物資であることを認識してこれを買受ける場合に成立し、賍物故買罪は賍物であることを認識してこれを買受ける場合に成立する。この二つの認識が同時に存在する場合には二つの罪が成立するが、その中一つの認識しか存在しない場合には一つの罪のみが成立することは當然である。この兩罪が起訴された場合において…
一 判決の既判力の意義 二 民事判決の既判力 三 刑事判決の既判力と一事不再審の原則 四 公訴不可分の原則の意義 五 所持罪における幅員的關係の區分と延長的(時間的)關係の區分 六 一事不再理の原則の適用の一場合と所持罪の特殊性 七 物の所持における實力支配關係の開始と持續の意義 八 人が多數の物を同時に所持する場合における所持の個數 九 所持の個別性の決定と社會通念 十 連續犯廢止前の所持に對する有罪判決と廢止後の繼續的所持に對する既判力 一一 確定判決後又は刑罰法規の改正實施後にわたる繼續犯の可罰性と憲法第三九條後段
舊刑訴法363條1號,舊刑訴法317條,民訴199條1項,民訴201條1項,舊刑訴291條1項,舊刑訴363條1號,昭和22年政令165號1條,昭和22年政令165號,昭和22年政令156號1條,改正前刑法55條,憲法39條後段
判旨
所持罪が社会通念上別個の行為と認められる場合、前の所持に関する確定判決の既判力(一事不再理の効力)は及ばない。また、一罪の一部に確定判決があった場合でも、判決後に継続された所持については既判力の限界により免訴とはならない。
問題の所在(論点)
数個の物件を包括的に所持していた者が、一部の物件を隠匿して残りの物件についてのみ確定判決を受けた場合、隠匿していた物件の所持について一事不再理の原則(刑訴法337条1号)が適用されるか。所持罪の罪数判断と既判力の時間的限界が問題となる。
規範
所持の罪数(単一性)は、実力支配の態様を内心的・物理的・時間的・空間的関係等の諸般の事情に照らし、社会通念によって決定すべきである。一事不再理の原則(刑事訴訟法337条1号)は確定判決の既判力の一作用であり、その適用範囲は判決の基本となった既存の犯罪事実に限定される。したがって、継続犯である所持罪において確定判決があった場合、判決前の所持には既判力が及ぶが、確定判決という限界を超えて継続されるその後の所持については、既判力は及ばない。
重要事実
被告人は占領軍物資である靴下やペニシリン等を他の衣類等と一括して所持していた。家宅捜索を受けた際、被告人は一部の物件(第一事件)のみを押収に供し、残りの物件(第二事件)を秘かに隠匿して所持を継続し、後に売却等を行った。第一事件について有罪判決が確定した後、隠匿していた第二事件の物資所持について改めて起訴された。原審は、所持の包括性・継続性を理由に、第一事件の確定判決の効力が第二事件にも及ぶとして免訴を言い渡した。
あてはめ
被告人は捜索時に一部物件を「取り除け他に隠匿」しており、この措置は所持の形態に別個独立の様相を与え、社会通念上、第二事件の物件について「新たに別個独立の所持を開始」したものと認め得る余地がある。仮に新所持が開始されたとすれば、第一事件の確定判決の効力は及ばない。また、仮に一罪の一部であったとしても、確定判決は既存の事実に限定されるため、判決時以後の継続的な所持については、独立した処罰の対象となり得る。したがって、判決後の所持については不告不理の原則により第一事件では審判できず、反面として一事不再理の原則も適用されない。
結論
原判決を破棄し、差し戻す。所持の個別性を検討せず、漫然と第一事件の既判力が第二事件に及ぶとした原審の判断には、所持罪の法理および一事不再理の原則の解釈に誤りがある。
実務上の射程
継続犯における一事不再理の効力の範囲を確定判決時で区切る「時間的限界」を示す重要判例である。答案上は、事後的に発覚した余罪が「別個の行為(併合罪)」か「一罪の一部」かを社会通念で分けた上で、後者の場合でも「判決後の継続分」には既判力が及ばないとする論理構成に用いる。
事件番号: 昭和25(れ)1118 / 裁判年月日: 昭和25年10月26日 / 結論: 棄却
一 物の所持とは人がその実力支配下に物を保管する行為をいうのであるから、人が物を保管する意思をもつてこれに適応する実力支配関係を多少の時間継続して実現する行為をすれば、それによつて物の所持は成立するのである。そして一旦成立した所持が爾後存続するためには、その所持人が常にその物を所持することを意識している必要はないのであ…
事件番号: 昭和24(れ)1034 / 裁判年月日: 昭和24年12月6日 / 結論: 破棄差戻
一 本件は昭和二二年政令第一六五號連合國占領軍その将兵又は連合國占領軍に附屬し若くは附随する者の財産の收受及び所持の禁止に關する件第一條違反として不法收受の事實につき起訴したものであることは記録上明らかである。そして右不法收受の公訴事實には不法收受の實事を包含するものであるから不法收受事實について起訴された以上は、不法…
事件番号: 昭和26(あ)284 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」の概念については、物の事実上の支配を意味するものであり、原審の解釈に誤りはない。また、被告人の主張する免責事由が認められない以上、当該所持行為を罰することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は軍票(軍用手票)を所持していたとして起訴された。被告人は、当該軍票を所持するに至った経…
事件番号: 昭和24(れ)1728 / 裁判年月日: 昭和25年7月13日 / 結論: 破棄自判
一 第一審判決は、昭和二三年政令第一六五號違反の罪と古物商取締法違反の罪を、想像的競合をなす一罪として重い政令違反罪の刑によつて、懲役一年及び罰金三千圓を言渡した。これに對し第二審判決は右二個の罪を併合罪と見て所論のような各別の刑を併科したのである。しかしながら、第二審の罰金刑の合算額は第一審の罰金額より五千圓だけ多く…