一 物の所持とは人がその実力支配下に物を保管する行為をいうのであるから、人が物を保管する意思をもつてこれに適応する実力支配関係を多少の時間継続して実現する行為をすれば、それによつて物の所持は成立するのである。そして一旦成立した所持が爾後存続するためには、その所持人が常にその物を所持することを意識している必要はないのであつて、苛しくもその人とその物との間にこれを保管する実力支配関係が持続されていることを客観的に示めすに足るその人の容態さえあれば、所持はなお存続するものといわなければならない。蓋しもし所持存続のために所持意識の存続が必要であるとすれば、人がその財産を自宅に蔵置している場合においても、その人がその蔵置の事実を失念したというだけのことでその人はその財物の所持を喪失するという、到底是認することのできない結論に到達するからである(なおれ、昭和二二年第九五六号同二四年五月一八日大法廷判決参照) 二 或る物の所持の継続中新たにその物の所持を禁止する刑罰法規が施行せられた場合、その施行後依然継続せられる所持に対して、法令上特にその適用を除外する明文の存しない限り、その新法規の適用せらるべきにはむしろ当然である。論旨は、かゝる場合新法規施行前に入手した物の所持につきその届出等に関し特別の規定を設けなければ新法規を以てこれを取締ることはできないと主張する。しかし、立法の妥当性の問題としては格別、法令の効力上の問題としては到底賛同し得ないところである。 三 被告人は占領軍の物資であるミルクを昭和二二年七月頃買受けて所持し、自宅にこれを蔵置して、同二三年二月二五日頃に及んだというであり、しかもその所持が違法たることは論旨第一点に対し説明した通りであるから、仮りにその間被告人において既にミルクが消費されたものと信じていたものとしても、この一事により一旦成立した不法所持罪の存続を否定し得るものではない。
一 物に対する所持と所持についての意識の存続の要否 二 物の所持の継続中にその物の所持禁止法規が施行せられた場合にその施行後継続せる所持に対する処罰の能否 三 占領軍物資を既に消費して盡してしまつたと信じていた場合と不法所持罪の成立
昭和22年政令165号1条
判旨
物の所持は、人が保管の意思をもって実力支配関係を継続することで成立し、一旦成立した後は、常に所持を意識していなくとも客観的な支配の容態が持続していれば存続する。また、所持の継続中に新たな禁止刑罰法規が施行された場合、特段の除外規定がない限り、施行後の所持に対して新法が適用される。
問題の所在(論点)
1. 所持の継続中に禁止規定が施行された場合、施行後の所持に新法を適用できるか。2. 所持の継続に「所持の意識」が常に存在し続ける必要があるか。
事件番号: 昭和23(れ)956 / 裁判年月日: 昭和24年5月18日 / 結論: 破棄差戻
一 一事不再審の原則は判事判決の既判力の一作用に外ならない。元來判決の既判力というものは一旦判決によつて一定の法律關係(刑罰權又は私權等)の存否が確定された以上原則として、爾後は法律上有効にこれを變動せしめないということをその本質とするのである。 二 民事においては裁判所は判決により確定された法律關係については、その判…
規範
1. 物の「所持」とは、人が物を実力支配下に置く行為をいう。所持の成立には、保管の意思をもって客観的な実力支配関係を継続することが必要である。2. 一旦成立した所持の「継続」には、所持人が常にその意識を維持している必要はなく、客観的に支配の容態が持続していれば足りる。3. 継続犯において、所持の継続中に新たな刑罰法規が施行された場合、施行後の状態に対して新法を適用することは、遡及処罰の禁止(憲法39条前段)に抵触しない。
重要事実
被告人は、連合国占領軍の物資であるミルク等を昭和22年7月頃に譲り受け、自宅に蔵置して所持していた。その後、同年8月に占領軍物資の所持を禁止し罰則を定める政令第165号が施行された。被告人は同政令施行後の昭和23年2月25日頃にも当該物資を自宅に所持し続けていたが、弁護人は、新法施行前に入手した物の所持については届出規定等のない限り処罰できない、また被告人は既に消費したと誤信しており所持の意識がなかったと主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人は政令第165号の施行前から対象物資を占有していたが、原審が処罰対象としたのは施行後の昭和23年2月の所持である。所持の継続中に禁止法規が施行された場合、施行後もなお継続される所持に対して新法を適用するのは当然であり、適法である。2. 被告人は、過去に物資を入手して自宅に蔵置しており、客観的な実力支配関係が持続している。たとえ被告人が途中で「既に消費した」と誤信し、所持の意識を一時的に欠いたとしても、自宅という支配領域内に物を置き、客観的な支配容態が維持されている以上、所持はなお存続しているといえる。
結論
被告人の行為に政令第165号を適用して処罰することは正当であり、一旦成立した所持の継続に常時的な所持意識は不要であるとして、上告を棄却した。
実務上の射程
「所持」の概念における主観的要素(所持の意思)を緩和し、客観的な支配状況を重視する判断枠組みを示した。銃砲刀剣類や薬物の所持罪における「継続」の判断や、法令変更時の経過措置の解釈において基準となる判例である。
事件番号: 昭和25(れ)1767 / 裁判年月日: 昭和26年3月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」とは、対象物を自己の事実上の支配内におくことを意味し、その具体的態様まで判示する必要はない。また、刑の執行猶予を付すか否かは事実審裁判所の広範な自由裁量に属する。 第1 事案の概要:被告人は、昭和22年政令165号に違反する罪(具体的な対象物は判決文からは不明)に問われた。一審およ…
事件番号: 昭和24(れ)2741 / 裁判年月日: 昭和25年3月16日 / 結論: 棄却
政令第一六五號違反の罪は、占領軍物資であることを認識してこれを買受ける場合に成立し、賍物故買罪は賍物であることを認識してこれを買受ける場合に成立する。この二つの認識が同時に存在する場合には二つの罪が成立するが、その中一つの認識しか存在しない場合には一つの罪のみが成立することは當然である。この兩罪が起訴された場合において…
事件番号: 昭和25(あ)1737 / 裁判年月日: 昭和27年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占領軍財産の不法所持を処罰する政令は、施行前から正当な権限なく所持する行為が占領目的に有害な行為として処罰対象であった以上、事後的な権利侵害には当たらない。また、正当な権限に基づく所持は施行後も違法とされないため、当該政令は憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは昭和22年政令第165号(…
事件番号: 昭和24(れ)1926 / 裁判年月日: 昭和25年1月12日 / 結論: 棄却
所持はある物を自己の事實上の支配内に置くことであつて、その支配が他人のためにすると自己のためにするとを問うものではない。そして原判決の判示とその證據とを對照すれば、原判決の認定した事實は、被告人がAから依頼を受けて連合國占領軍の財産であることを知りながら、判示袋二個を同人より受取りこれを自己の自轉車に積み、判示キヤンプ…