判旨
刑法上の「所持」とは、対象物を自己の事実上の支配内におくことを意味し、その具体的態様まで判示する必要はない。また、刑の執行猶予を付すか否かは事実審裁判所の広範な自由裁量に属する。
問題の所在(論点)
1. 処罰規定における「所持」の意義、および判決における具体的な所持態様の適示の要否。 2. 裁判所による刑の執行猶予の判断の性質、および執行猶予を付さない判断が憲法13条に違反するか否か。
規範
1. 処罰規定における「所持」とは、物を自己の事実上の支配内におくことを意味し、通俗的な語義と同様である。したがって、判示において所持の方法等を具体的に示す必要はない。 2. 刑の執行猶予を言い渡すか否かは、犯罪の情状を斟酌した上で行われる事実審裁判所の自由裁量に委ねられており、特段の事情がない限り、執行猶予を付さないことが憲法13条の個人の尊厳等に違反することはない。
重要事実
被告人は、昭和22年政令165号に違反する罪(具体的な対象物は判決文からは不明)に問われた。一審および二審において、被告人に対して実刑判決が下され、刑の執行猶予は付されなかった。これに対し被告人側は、①判決において「所持」の具体的態様が示されていないこと、②所持の意思等の事実認定に違法があること、③被告人の諸事情を考慮せずに執行猶予を付さないことは個人の尊厳を保障する憲法13条に違反する不当な量刑であること、を理由に上告した。
あてはめ
1. 「所持」は、物を自己の事実上の支配内に置くという通俗的な意味と解されるため、事実認定において具体的態様を詳述せずとも罪の成立を判断するに足りる。本件においても、原判決の挙示する証拠により事実上の支配関係が認められ、経験則に反する点はない。 2. 執行猶予の付与は法律上裁判所の裁量権に属する事項である。被告人に有利な事情があったとしても、裁判所が情状を考慮した上で実刑を選択したことは、裁量の範囲内の判断である。したがって、個人の尊厳等の憲法規範に直ちに抵触するものではない。
結論
本件における「所持」の認定に不備はなく、また執行猶予を付さなかった原判決の判断は裁判所の合理的な裁量の範囲内であり、憲法違反や判決不備は認められないため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和26(あ)284 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」の概念については、物の事実上の支配を意味するものであり、原審の解釈に誤りはない。また、被告人の主張する免責事由が認められない以上、当該所持行為を罰することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は軍票(軍用手票)を所持していたとして起訴された。被告人は、当該軍票を所持するに至った経…
実務上の射程
「所持」の概念を「事実上の支配」と定義した点、および量刑・執行猶予判断が事実審の広範な裁量に属することを確認した点に意義がある。答案上は、所持罪の成立要件における客観的要素の定義として、また量刑判断の不当性を争う際の裁判所の裁量権の限界を議論する際の前提として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1118 / 裁判年月日: 昭和25年10月26日 / 結論: 棄却
一 物の所持とは人がその実力支配下に物を保管する行為をいうのであるから、人が物を保管する意思をもつてこれに適応する実力支配関係を多少の時間継続して実現する行為をすれば、それによつて物の所持は成立するのである。そして一旦成立した所持が爾後存続するためには、その所持人が常にその物を所持することを意識している必要はないのであ…
事件番号: 昭和26(れ)415 / 裁判年月日: 昭和26年6月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】没収をするか否かは裁判所の裁量に属し、任意的没収の対象となる物について没収を行わなかったとしても直ちに違法とはならない。 第1 事案の概要:被告人が関与した刑事事件において、原審は証拠物件(証第1号から第17号)について没収の言渡しを行わなかった。これに対し、上告人は当該物件を没収しなかったことの…
事件番号: 昭和23(れ)956 / 裁判年月日: 昭和24年5月18日 / 結論: 破棄差戻
一 一事不再審の原則は判事判決の既判力の一作用に外ならない。元來判決の既判力というものは一旦判決によつて一定の法律關係(刑罰權又は私權等)の存否が確定された以上原則として、爾後は法律上有効にこれを變動せしめないということをその本質とするのである。 二 民事においては裁判所は判決により確定された法律關係については、その判…
事件番号: 昭和26(れ)534 / 裁判年月日: 昭和26年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物の所持を内容とする罪の認定において、証拠として所持された物件が現存していることは絶対の要件ではない。人証や書証といった物件以外の証拠によって、犯罪事実を認定することは許容される。 第1 事案の概要:被告人は昭和22年政令第165号違反(物の所持を内容とする罪)に問われた。原審は、所持された物件自…