一 第一審判決は、昭和二三年政令第一六五號違反の罪と古物商取締法違反の罪を、想像的競合をなす一罪として重い政令違反罪の刑によつて、懲役一年及び罰金三千圓を言渡した。これに對し第二審判決は右二個の罪を併合罪と見て所論のような各別の刑を併科したのである。しかしながら、第二審の罰金刑の合算額は第一審の罰金額より五千圓だけ多くなつているが、第二審の懲役刑は第一審のそれより二箇月も輕くなつているのである。それ故、第二審の刑は全体として第一審の刑より重いと云うことはできない。 二 古物商取締法第二一條は、「此法律ヲ犯シタル者ニハ刑法(舊)ノ數罪倶發ノ例ヲ用イズ」と規定しているが、この規定は現行刑法の下においては併合罪の規定の適用を排除する意味に解すべきである。 三 古物商取締法に違反して住所氏名不詳の者から物品を買受けた行爲と昭和二二年政令第一六五號に違反して同人から連合國軍物資を收受した行爲とは、同時に物を取得したという點で行爲を一にし刑法第五四條第一項前段の「一個の行爲にして數個の罪名に觸れ」る場合に該當し、併合罪には該當しない。
一 第一審で懲役一年罰金三千圓を言渡し第二審で懲役を二ケ月輕くし罰金を五〇圓多く言渡した場合と不利益變更の禁止 二 古物商取締法第二一條にいわゆる「數罪倶發ノ例ヲ用イズ」の意義 三 古物商を營む者が住所氏名不詳の者から米進駐軍違財産を買受けた所爲の擬律
舊刑訴法403條,古物商取締法7條,昭和22年政令165號1條1項,刑法54條1項
判旨
一回の取引で古物商が不詳者から米進駐軍用軍服を買い受けた行為は、古物商取締法違反(不詳者からの買受)と昭和22年政令第165号違反(占領軍財産の不法収受)の双方に該当するが、これらは「一個の行為にして数個の罪名に触れる」場合として、刑法54条1項前段の観念的競合にあたる。
問題の所在(論点)
一個の買い受け行為によって複数の特別法違反が成立する場合、これらを併合罪(刑法45条)として処断すべきか、それとも一個の行為として観念的競合(刑法54条1項前段)とすべきかが問題となる。特に、特別法に併合罪の適用を排除する規定がある場合の処理が問われた。
規範
「一個の行為にして数個の罪名に触れる」観念的競合(刑法54条1項前段)とは、一回の身体的動作が複数の構成要件に該当することを指す。特別法において「数罪倶発ノ例ヲ用イズ」との規定がある場合でも、それが併合罪(刑法45条)の適用を排除する趣旨にとどまるのであれば、行為の同一性が認められる場合には当然に観念的競合として処理されるべきである。
事件番号: 昭和24(れ)2741 / 裁判年月日: 昭和25年3月16日 / 結論: 棄却
政令第一六五號違反の罪は、占領軍物資であることを認識してこれを買受ける場合に成立し、賍物故買罪は賍物であることを認識してこれを買受ける場合に成立する。この二つの認識が同時に存在する場合には二つの罪が成立するが、その中一つの認識しか存在しない場合には一つの罪のみが成立することは當然である。この兩罪が起訴された場合において…
重要事実
古物商を営んでいた被告人が、住所氏名不詳の者から、連合国占領軍の財産である米進駐軍用軍服を買い受けた。この行為が、(1)古物商として住所氏名不詳者から物品を買い受けた罪(古物商取締法違反)と、(2)占領軍財産を不法に収受・所持した罪(昭和22年政令第165号違反)の双方に該当すると判断された。原判決は、古物商取締法21条(旧刑法の数罪倶発の例を用いない旨の規定)を根拠に、これらを併合罪として各別に刑を科したため、被告人が上告した。
あてはめ
被告人が不詳者から軍服を買い受けた行為は、物品の取得という点において単一の動作である。この「同時に物を取得した」という事実関係に照らせば、古物商取締法上の義務違反と、特定の物資(占領軍財産)の不法収受という二つの罪名は、いずれも同一の取得行為に付着した法的評価といえる。したがって、これは一個の行為が数個の罪名に触れる場合に該当し、併合罪として各別に処罰することは、行為の単一性に反し許されない。なお、政令違反の「収受」と「所持」は包括一罪を構成する。
結論
被告人の行為は、昭和22年政令第165号違反と古物商取締法違反の観念的競合となり、刑法54条1項前段および10条に従い、重い政令違反の刑をもって処断すべきである。原判決が併合罪としたのは法令適用の誤りであり、破棄を免れない。
実務上の射程
一個の取得行為が複数の特別法における禁止規定に抵触する場合の罪数判断を示す。古物商による不正品の買い受けのように、取引態様自体が違法とされる罪と、目的物の性質から違法とされる罪が重なる場合、観念的競合として処理すべきことを明示した実務上重要な判断である。
事件番号: 昭和26(あ)1721 / 裁判年月日: 昭和27年11月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の法律が、立法目的、保護法益、および構成要件を異にする場合、それらに違反する一個の行為は、刑法54条1項前段の観念的競合(一個の行為にして数個の罪名に触れる場合)として処断される。 第1 事案の概要:被告人Aは、連合国占領軍の財産である石油製品を不正に扱ったとして、昭和22年政令第165号(連…
事件番号: 昭和23(れ)956 / 裁判年月日: 昭和24年5月18日 / 結論: 破棄差戻
一 一事不再審の原則は判事判決の既判力の一作用に外ならない。元來判決の既判力というものは一旦判決によつて一定の法律關係(刑罰權又は私權等)の存否が確定された以上原則として、爾後は法律上有効にこれを變動せしめないということをその本質とするのである。 二 民事においては裁判所は判決により確定された法律關係については、その判…
事件番号: 昭和24(れ)1034 / 裁判年月日: 昭和24年12月6日 / 結論: 破棄差戻
一 本件は昭和二二年政令第一六五號連合國占領軍その将兵又は連合國占領軍に附屬し若くは附随する者の財産の收受及び所持の禁止に關する件第一條違反として不法收受の事實につき起訴したものであることは記録上明らかである。そして右不法收受の公訴事實には不法收受の實事を包含するものであるから不法收受事實について起訴された以上は、不法…
事件番号: 昭和23(れ)2115 / 裁判年月日: 昭和24年6月7日 / 結論: 棄却
原判決は、明らかに「連合國占領軍兵士から同兵士の財産であるサツカリン」を買受け又は販賣の斡旋を依頼せられ受取り、所持した事實を認定したものであるから、該サツカリンが前記政令第一條に掲げる財産中に包含されていることは毫も疑いがない。