判旨
起訴状に特定された犯罪日時と実際の公判での認定に多少の差異があっても、直ちに被告人の防御権を侵害する訴訟手続の法令違反とはならない。また、弁護人が記録未閲覧であっても、人定質問のみを行い期日を続行する等の措置が取られていれば、防御の機会を奪ったものとはいえない。
問題の所在(論点)
起訴状における公訴事実(犯罪日時)の特定の程度および、弁護人が記録未閲覧の状態で人定質問が行われたことが、被告人の防御権を侵害し訴訟手続の法令違反(刑訴法379条)となるか。
規範
起訴状における公訴事実の特定(刑事訴訟法256条3項)は、被告人の防御の範囲を明確にするために必要である。もっとも、記載された日時等の細部が証拠によって認定された事実と厳密に一致しない場合であっても、それが被告人の防御に実質的な不利益を及ぼさない限り、訴訟手続の法令違反には当たらない。また、裁判所が被告人の防御を尽くさせるために適切な期日変更等の措置を講じている場合には、被告人の防御権侵害は否定される。
重要事実
被告人は、昭和26年3月15日頃に窃盗を行ったとして起訴された。弁護人は、起訴状に「同日午後2時頃」と記載されていると主張したが、実際の起訴状には「3月15日頃」とのみ記載されていた。また、第一審第1回公判期日において、弁護人が記録を未閲覧であることを理由に、裁判所は被告人への人定質問を行った直後に期日の続行(延期)を許可した。
あてはめ
まず、起訴状には「3月15日頃」と記載されており、弁護人が主張するような具体的な時刻(午後2時頃)までの記載は存在しなかったため、前提となる事実誤認がある。次に、第1回公判では人定質問という形式的な手続のみが行われ、弁護人の準備不足を考慮して直ちに期日の続行が認められている。このような裁判所の措置は、被告人の防御の機会を適切に確保するものといえ、弁護活動を妨げた事実も認められない。
結論
被告人の防御を講じさせなかった事実は認められず、訴訟法違反の主張は前提を欠くため、上告は棄却される。
実務上の射程
公訴事実の特定に関しては、本判決のように「〜頃」という概括的記載でも、他の記載事項と相まって事象が特定され、被告人に不意打ちを与えない限り許容される。実務上は、弁護人の準備不足がある場合に、裁判所が期日を分ける等の柔軟な訴訟指揮を行うことで、防御権侵害の瑕疵を治癒し得ることを示唆している。
事件番号: 昭和26(れ)1776 / 裁判年月日: 昭和29年4月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公訴事実に特定の記録が引用されている場合であっても、当該記録中の記載によって起訴事実の内容が具体的に判明するならば、公訴事実の特定を欠く違法はない。 第1 事案の概要:検察官が本件の公判請求を行う際、公訴事実として特定の記録(各事件送致書及び追送関係書類中の記録)を引用した。被告人側は、このような…