判旨
公訴事実に特定の記録が引用されている場合であっても、当該記録中の記載によって起訴事実の内容が具体的に判明するならば、公訴事実の特定を欠く違法はない。
問題の所在(論点)
公判請求書において、公訴事実を直接記載せずに記録を引用する形式をとった場合、刑事訴訟法256条3項の定める「できる限り罪を犯した日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定」したといえるか。
規範
公訴事実の特定(刑事訴訟法256条3項)がなされているか否かは、公判請求書(起訴状)の記載及びそこで引用されている記録の内容を総合し、被告人の防御の対象となる犯罪事実が客観的に判然としているか否かによって判断すべきである。
重要事実
検察官が本件の公判請求を行う際、公訴事実として特定の記録(各事件送致書及び追送関係書類中の記録)を引用した。被告人側は、このような引用形式による起訴は事実が判然とせず、公訴事実の特定に欠ける旨を主張して上告した。
あてはめ
本件公判請求書の公訴事実として引用されている記録、すなわち「各事件送致書」および「九月十一日附追送関係書類中の記録一四丁」に記載された各窃盗事実の内容を精査すると、被告人がいかなる事実について訴追されているかが具体的に示されている。したがって、引用という形式を採ってはいるものの、被告人に対する本件起訴事実は客観的に判然としており、防御の範囲も明確であると解される。
結論
本件起訴事実は判然としており、公訴事実の特定に欠けるところはない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、初期の刑事訴訟法運用において、記録引用形式による起訴事実の特定を肯定した事例である。現在の実務では起訴状に直接事実を記載することが原則(起訴状一本主義との兼ね合いも含む)であるが、事後的に事実の特定が争われた際、関係書類との照合によって防御の対象が明確であれば足りるとする「特定」の程度の判断基準として参照し得る。
事件番号: 昭和26(あ)5284 / 裁判年月日: 昭和27年9月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状に特定された犯罪日時と実際の公判での認定に多少の差異があっても、直ちに被告人の防御権を侵害する訴訟手続の法令違反とはならない。また、弁護人が記録未閲覧であっても、人定質問のみを行い期日を続行する等の措置が取られていれば、防御の機会を奪ったものとはいえない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和2…