判旨
公判調書に特定の事実の記載がない場合であっても、それが刑事訴訟規則44条等の法令により記載要件とされていない事項であれば、当該記載の欠如をもって直ちにその事実がなかったと断定することはできない。
問題の所在(論点)
公判調書に記載がない事実は、直ちに存在しなかったとみなされるのか。公判調書の証明力の範囲と、刑事訴訟規則44条に規定されていない事項の扱いが問題となる。
規範
公判調書の記載事項は、刑事訴訟法及び刑事訴訟規則(特に規則44条)によって定められている。法令上、記載要件として定められていない事項については、たとえ調書にその記載がなくても、その事実が存在しなかったという消極的証明力を有するものではない。
重要事実
被告人側は、公判調書に特定の事実の記載がないことを理由として、その事実が実際には存在しなかったと主張した。これに基づき、原審の判断に事実誤認または訴訟法違反があるとして上告を申し立てた。なお、問題となった「特定の事実」の具体的な内容は判決文からは不明である。
あてはめ
刑事訴訟規則44条を参照すると、被告人側が主張する事実は、同条が定める公判調書の記載要件には該当しない。公判調書は法令で定められた事項についてのみ正確な記録を担保するものであり、記載要件ではない事項について記載が漏れていたとしても、それは手続上の瑕疵には当たらない。したがって、記載がないことをもって「事実がなかった」と推認することは論理上認められない。
結論
本件上告は棄却される。記載要件でない事項が公判調書に記されていないことをもって、訴訟法違反や事実誤認の理由とすることはできない。
実務上の射程
公判手続の適法性を争う際、公判調書の絶対的証明力(刑訴法52条)が及ぶ範囲を画定する基準となる。答案上は、調書にない事実を根拠に手続の違法を主張する場面で、その事項が規則44条の記載要件(列記された1号〜13号等)に該当するかを検討する際に活用すべき判例である。
事件番号: 昭和28(あ)1089 / 裁判年月日: 昭和29年10月19日 / 結論: 棄却
刑訴規則第四四条は、第一審における公判調書の記載要件であつて、控訴審における公判調書の記載要件ではない。