判旨
検察官の冒頭陳述は、訴訟の状況に応じて公訴事実を引用し、または個々の証拠の立証趣旨を陳述することで足りる。また、第一審で異議を述べなかった証拠調べの違法を控訴審で主張することは、時機に遅れたものとして許されない。
問題の所在(論点)
検察官が独立した手続としての冒頭陳述を行わず、立証趣旨の陳述等で代替した場合に、刑事訴訟法296条違反の違法となるか。また、第一審で異議を述べなかった手続上の違法を、事後に主張することが許されるか。
規範
刑事訴訟法296条が定める検察官の冒頭陳述は、証拠によって証明すべき事実を明らかにすることを目的とするものである。したがって、訴訟の状況に応じ、既に朗読した公訴事実を引用すること、または冒頭陳述に代えて個々の証拠の取調べ請求時にその立証趣旨を具体的に陳述することをもって、同条の要請を満たすものと解される。
重要事実
第一審の公判手続において、検察官は証拠調べの開始に際し、起訴状記載の公訴事実を立証する旨を述べた上で、個々の証拠の取調べを請求し、それぞれについて立証趣旨を述べるにとどめた。これに対し、被告人および弁護人は証拠調べに関し異議を申し立てず、裁判官からの問いに対しても証拠とすることに同意する旨を回答した。その後、弁護人は刑事訴訟法296条所定の冒頭陳述を欠く違法があるとして控訴・上告に及んだ。
あてはめ
本件では、検察官は公訴事実の立証を明言した上で、証拠調べ請求に併せて個々の立証趣旨を陳述しており、実質的に証拠によって証明すべき事実を明らかにしている。これは訴訟状況に応じた適宜な方法といえ、判例の趣旨に照らし適法である。また、被告人らは第一審において当該手続に異議を述べず、むしろ証拠採用に同意を与えていたのであるから、控訴審段階でこの点を違法として争うことは訴訟上の信義則等に照らし、時機に遅れた不適法な主張といえる。
結論
検察官が公訴事実を引用し、または個々の立証趣旨を陳述した場合には、刑事訴訟法296条の冒頭陳述として欠けるところはない。また、第一審で異議なく進行した手続の違法を後から主張することは許されない。
実務上の射程
冒頭陳述の形式的厳格性を緩和する判例である。実務上は、冒頭陳述が不十分であるとの主張(刑訴法296条違反)に対し、立証趣旨陳述等での代替可能性を指摘する際の根拠となる。また、手続的瑕疵の主張における適時性(異議申立ての要否)についても言及しており、公判手続の瑕疵を争う際の防御側の帰責性を検討する場面で参照しうる。
事件番号: 昭和27(あ)6594 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判期日の冒頭陳述において行った供述は、証拠能力を有し、有罪判決の証拠として用いることができる。 第1 事案の概要:被告人3名は、刑事裁判の当初より一貫して犯罪事実を自供していた。また、検察側が提出した被害顛末書を証拠とすることについても、被告人側は同意を与えていた。弁護人は上告審において…