所論は、檢察官の第一審における個々の立證趣旨の陳述の外刑訴二九六條に規定する證據調の立證事項に關する冐頭陳述がなされていないことを非難する。しかしわが刑訴法の第一審公判手續における證據調は、檢察官の起訴状の朗讀、これに對する被告人及び辯護人の陳述が終つた後同一の裁判官の面前において引續きこれを行うものであるから、かゝる冐頭陳述を行う必要性に乏しく、從つて、同條所定の冐頭陳述は、訴訟の状況に應じ適宜或いは既に朗讀した公訴事實を引用し又はその冐頭陳述に代えて個々の立證趣旨を陳述するを以て足りるものと解するを相當する。されば、本件において既に個々の立證趣旨の陳述がなされている以上冐頭陳述がなされていなくとも違法といえないばかりでなく、何等判決に影響を及ぼさないこと明らかであるといわなければならない。しかのみならず、論旨は、刑訴四〇五條に定める事由に該當しないからいずれにしても採用することはできない。
檢察官の冐頭陳述の程度
刑訴法296條,刑訴法405條
判旨
刑事訴訟法296条の冒頭陳述は、訴訟状況に応じ、既に朗読した公訴事実の引用や個々の立証趣旨の陳述をもって代えることが許される。また、自白の補強証拠として盗難被害顛末書を用いることは、それが単なる意見や想像でなく客観的事実の記載であれば適法である。
問題の所在(論点)
1. 検察官が法定の冒頭陳述を行わず、個々の証拠の立証趣旨陳述のみを行った場合に、刑事訴訟法296条違反となるか。2. 盗難被害顛末書は、自白の補強証拠(憲法38条3項、刑訴法319条2項)となり得るか。
規範
検察官による冒頭陳述(刑事訴訟法296条)の趣旨は、証拠調べに先立ち立証事項を明らかにすることにある。わが国の裁判官制度下では、起訴状朗読等の手続に続き同一の裁判官が証拠調べを行うため、訴訟の状況に応じて適宜、既読の公訴事実を引用し、あるいは個々の証拠の立証趣旨の陳述をもってこれに代えることが許容される。
重要事実
被告人が窃盗罪に問われた事案において、検察官は刑事訴訟法296条が規定する形式的な「冒頭陳述」を行わず、個々の証拠についての立証趣旨の陳述のみを行った。また、第一審判決は、被告人の自白を裏付ける補強証拠として、調査結果に基づく被害事実が記載された「盗難被害顛末書」を採用し、有罪判決を言い渡した。弁護人は、冒頭陳述の欠如および自白のみによる処罰(補強証拠の不備)を理由に上告した。
あてはめ
1. 本件では、検察官により個々の証拠の立証趣旨が陳述されており、裁判官は既に起訴状朗読等を通じて公訴事実を把握している。このような訴訟状況下では、実質的に立証事項が示されており、冒頭陳述の欠如は違法ではなく、判決に影響を及ぼさない。2. 盗難被害顛末書は、単なる意見や想像ではなく、調査の結果判明した客観的な被害事実を記載したものである。したがって、証拠能力を有するとともに、自白の真実性を担保するに足りる補強証拠として機能する。
結論
1. 冒頭陳述の手続に違法はなく、個々の立証趣旨の陳述等で足りる。2. 被告人の自白を唯一の証拠としたものとはいえず、有罪判決は正当である。上告棄却。
実務上の射程
冒頭陳述の省略や簡略化の許容性を論じる際の根拠となる。また、補強証拠の適格性について、被害届や顛末書のような書面であっても、事実記載が具体的であれば自白を裏付ける証拠として十分であることを示す実務上重要な指針である。
事件番号: 昭和27(あ)6594 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判期日の冒頭陳述において行った供述は、証拠能力を有し、有罪判決の証拠として用いることができる。 第1 事案の概要:被告人3名は、刑事裁判の当初より一貫して犯罪事実を自供していた。また、検察側が提出した被害顛末書を証拠とすることについても、被告人側は同意を与えていた。弁護人は上告審において…