判旨
横領罪における「物の同一性」について、委託を受けた原料そのものを加工して供出する義務がある場合には、代替物であってもその特定の個体を保管する義務を負い、これを私利のために処分すれば横領罪が成立する。
問題の所在(論点)
加工を委託された「原料」について、その物自体の同一性を維持して加工・納入すべき義務がある場合に、当該原料を他に処分する行為が横領罪を構成するか。
規範
受託者が委託の趣旨に反して目的物を処分した場合、その物が代替物であっても、特定の原料そのものを加工して供出する義務を負っているなど、物の同一性を保持すべき法的義務(寄託の趣旨)がある場合には、刑法上の横領罪が成立する。
重要事実
被告人は、特定の原料の加工を委託されたが、その委託された原料そのものを加工して供出することをせず、委託の趣旨に反して当該原料を私利のために処分したとして、横領罪に問われた。弁護人は憲法31条や38条2項違反等を主張して上告したが、前提となる事実に誤りがあるとして争った。
あてはめ
本件において、被告人は「委託された原料そのものを加工供出しなければならない」義務を負っていた。このような具体的な委託関係が存在する場合、当該原料は受託者の自由な処分に委ねられたものではなく、委託者のために「占有」している他人の物といえる。したがって、これに背いて自己の所有物のように処分した行為は、委託の任務に背く不法領得罪としての横領罪の構成要件を充足する。
結論
被告人は委託された原料そのものを加工供出する義務を負っていたのであるから、これを処分した行為について横領罪の成立を認めた原判決は正当であり、憲法違反等の主張は理由がない。
実務上の射程
事件番号: 昭和26(れ)2017 / 裁判年月日: 昭和26年12月25日 / 結論: 棄却
刑訴施行法第三条の二が上告理由を制限したからといつて、所論のように憲法違反があるということはできない。
本判決は、代替物であっても「その物自体」を扱う義務がある場合には横領罪の客体となりうることを示した。答案上では、消耗品や金銭と異なり、加工賃物(委託加工)において目的物の同一性が重視される事案でのあてはめ指標として利用できる。
事件番号: 昭和29(あ)2267 / 裁判年月日: 昭和31年7月3日 / 結論: 棄却
使途を限定されて寄託された金銭は、受託者において委託の本旨に違つた処分をしたときは横領罪を構成する。