判旨
業務上保管する物品について、処分権限の範囲外の者に売却する行為は、たとえ売却価格が低廉であっても、委託の趣旨に反して領得の意思を確定的に外部に発現するものとして業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
特定の属性を持つ者(転活需要者)への販売に限定された処分権限を有する者が、その範囲外の者に目的物を売却した場合、売却価格が適正価格以下であっても業務上横領罪が成立するか。
規範
業務上横領罪(刑法253条)における「横領」とは、自己の占有する他人の物を、委託の任務に背いて、所有者でなければできないような処分をする意思(不法領得の意思)を客観的に外部に発現する行為をいう。処分権限が特定の相手方や条件に限定されている場合、その範囲を逸脱して他人に売却する行為は、特段の事情がない限り、所有者としての処分を遂行したものとして「横領」に該当する。
重要事実
被告人は、輜重車(しちょうしゃ)300台を業務上保管していた。被告人に与えられていた処分権限は、「転活需要者」に対し、「払下代金額3万円を超えない限度」で販売することに限定されていた。しかし、被告人はこれらの車両を、転活需要者以外の者であるAに対し、9000円という低額で売却した。
あてはめ
被告人には、転活需要者に対してのみ販売を行う権限しか与えられていなかった。それにもかかわらず、被告人は権限外の第三者であるAに対して保管中の輜重車300台を売却しており、これは委託の趣旨に反して目的物を自己の支配下から離脱させる所有者的な処分行為であるといえる。売却代金が9000円に過ぎず、当初の権限範囲である3万円を下回っていたとしても、販売相手の限定という権限の根本的な制約を逸脱している以上、不法領得の意思の発現が認められる。
結論
被告人の行為は業務上横領罪を構成する。したがって、有罪とした原判決に違法はない。
実務上の射程
本判決は、権限逸脱行為が領得行為にあたるか否かの判断において、価格の多寡よりも「処分相手の限定」という権限の質的範囲を重視している。答案上では、委託の趣旨(権限の範囲)を特定した上で、客観的な処分行為がその範囲をいかに逸脱しているかを指摘し、不法領得の意思の発現を論証する際の実例として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1982 / 裁判年月日: 昭和27年2月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における領得の意思の実現としての処分行為は、必ずしも外部から認識可能な客観的行為に限られず、自己の支配下にある物を領得する主観的決意をもって足りる場合がある。 第1 事案の概要:被告人は、業務上占有していた物品について、本来の業務目的とは異なる使途に充てるため、あるいは自己の利得を図るために…