判旨
業務上自己の保管する物を売渡担保として提供する行為は、不法領得の意思の発現といえ、業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
業務上自己が保管する他人の物を、債務の担保として売渡担保(譲渡担保)に供する行為が、業務上横領罪(刑法253条)の「横領」に該当するか。
規範
業務上横領罪(刑法253条)における「横領」とは、不法領得の意思、すなわち他人の物の占有者が、委託の趣旨に反して、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思を外部に発現する行為をいう。物の処分方法として、売渡担保(譲渡担保)に供する行為も、所有者でなければなし得ない処分行為に該当する。
重要事実
被告人は、業務上他人の自動車を保管する立場にあった。被告人は、当該自動車を債務の担保として活用するため、債権者に対して売渡担保(譲渡担保)の形式で提供した。この事実に基づき、被告人が業務上横領罪の罪責を問われた事案である。
あてはめ
被告人は、業務上保管中であった自動車について、本来の委託趣旨である「保管」の範囲を超え、これを「売渡担保」として提供している。売渡担保は形式上所有権を移転させる処分行為であり、これは真の所有者でなければなし得ない行為である。したがって、被告人が当該自動車を担保に供した時点で、委託の趣旨に反して所有者として振る舞う不法領得の意思が外部に発現したものと評価できる。
結論
被告人が業務上保管中の自動車を売渡担保として提供した行為は、業務上横領罪を構成する。
実務上の射程
本判決は、横領罪における「処分」の態様として、完全な譲渡(売却)だけでなく、譲渡担保(売渡担保)の設定も含まれることを明示したものである。答案作成においては、占有者が物の交換価値を勝手に把握して担保に供する行為が、委託の趣旨に背く「不法領得の意思」の発現として、横領罪の実行行為(処分行為)に該当することを説明する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和26(れ)1592 / 裁判年月日: 昭和27年2月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上保管する物品について、処分権限の範囲外の者に売却する行為は、たとえ売却価格が低廉であっても、委託の趣旨に反して領得の意思を確定的に外部に発現するものとして業務上横領罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人は、輜重車(しちょうしゃ)300台を業務上保管していた。被告人に与えられていた処分権限は…