一 商品市場における売買取引の委託について、顧客から商品仲買人に委託証拠金の代用として有価証券を預託する行為の法律上の性質は、根質権の設定であつて、消費寄託ではない。 二 質権者は、質権設定者の同意がなくても、その権利の範囲内において質物を転質となしうるが、新たに設定された質権が原質権の範囲を超越するときは、横領罪を構成する。 三 商品仲買人が、いわゆる委託証拠金充用証券を顧客の同意なく担保に差し入れる行為は、それが原質権の範囲を超越しているときは、業務上横領罪を構成する。
一 商品市場における売買取引の委託について顧客から商品仲買人に委託証拠金の代用として有価証券を預託する行為の法律上の性質 二 転質と横領罪の成否 三 商品仲買人がいわゆる委託証拠金充用証券を担保に差し入れる行為が業務上横領罪にあたるとされた事例
商品取引所法(昭和42年法律97号による改正前のもの)97条,商品取引所法(昭和42年法律97号による改正前のもの)92条,民法362条,民法348条,刑法252条,刑法253条
判旨
承諾のない転質において、新たに設定された質権の内容(債権額・存続期間等)が原質権の範囲を超越し、質権設定者に不利な結果を生じさせる場合には、委託の任務に背く不法領得の意思が認められ、横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
質権者が、質権設定者の同意を得ずに質物を転質に供する行為が、刑法253条の業務上横領罪を構成するか。特に、民法348条で認められる承諾のない転質の限界が問題となる。
規範
質権者は民法348条に基づき、設定者の同意なくして自己の責任で転質をなし得る。しかし、転質として設定された質権の内容(債権額、存続期間等)が原質権の範囲を超越し、態様等が質権設定者に不利な結果を生じさせる場合には、当該行為は委託の趣旨に反する領得行為として横領罪を構成する。
重要事実
商品仲買人である被告人は、顧客から商品取引の委託証拠金の代用として有価証券の預託を受けていた。この預託は法律上、根質権の設定としての性質を有するものであった。被告人は、これら預託された有価証券を、顧客の承諾を得ることなく、かつ原質権の範囲(被担保債権額や期間等)を越える条件で自己の債務の担保として第三者に差し入れた。
あてはめ
本件における被告人の担保差入行為は、原質権の範囲を超越するものであった。具体的には、転質によって設定された債権額や存続期間等の内容が、委託者(質権設定者)との間の原質権の内容と比較して、委託者に不利な結果をもたらす態様であったと認定される。このような範囲外の転質は、法的に許容された転質権の行使を逸脱し、他人の物の占有者が委託の趣旨に反して所有者でなければできない処分をしたものといえる。
結論
被告人の行為は業務上横領罪を構成する。原判決が本件担保差入行為を原質権の範囲を超越するものと認定して同罪の成立を認めた判断は、相当である。
実務上の射程
本判例は、民法上の適法な処分権限(転質権)を有する占有者であっても、その権限を実質的に逸脱して設定者に不利益を及ぼす場合には横領罪が成立することを示した。答案上は、不法領得の意思の有無を判断する際、「権限の範囲内か否か」および「委託の趣旨への反抗(設定者への不利益)」の観点から検討する際の指針となる。
事件番号: 昭和26(あ)2604 / 裁判年月日: 昭和27年12月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における不法領得の意思とは、委託の任務に背いて権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいい、必ずしも自己の利益取得を意図することを要しない。金銭貸付権限を有する者が、その権限外で金員を貸与した場合は、背任罪ではなく業務上横領罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は金銭貸…
事件番号: 昭和40(あ)1027 / 裁判年月日: 昭和41年9月6日 / 結論: 棄却
有価証券の信用取引において、証券業者が、顧客から保証金の代用として預託を受けた有価証券につき、顧客の同意の範囲外である売却処分をしたときは、業務上横領罪が成立する。