有価証券の信用取引において、証券業者が、顧客から保証金の代用として預託を受けた有価証券につき、顧客の同意の範囲外である売却処分をしたときは、業務上横領罪が成立する。
有価証券の信用取引における保証金代用の有価証券の売却処分と業務上横領罪の成否
刑法253条,証券取引法49条,証券取引法51条
判旨
有価証券の信用取引において顧客から保証金の代用として預託された有価証券について、証券業者が顧客の同意の範囲外で売却処分した行為は、業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
信用取引の保証金代用として預託された有価証券(根担保質権が設定されたもの)を、証券業者が顧客の同意なく売却した場合に、業務上横領罪が成立するか。
規範
業務上横領罪(刑法253条)における「不法領得の意思」とは、他人の物の占有者が、委託の趣旨に反して、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう。代用有価証券の預託が根担保質権の設定である場合、質権者たる証券業者は、契約上の範囲内でのみ当該証券を管理・処分する権限を有するにすぎず、その範囲を逸脱した売却処分は委託の趣旨に背く領得行為にあたる。
重要事実
証券業者である被告人は、顧客との間で行った有価証券の信用取引に際し、保証金の代用として顧客から有価証券の預託を受けた。この預託の法的性質は根担保質権の設定であったが、被告人は、顧客からあらかじめ得ていた同意の範囲を超えて、当該有価証券を勝手に売却処分した。
あてはめ
本件における有価証券の預託は、信用取引に伴う債務を担保するための根担保質権の設定であると解される。被告人は業務上、当該証券を顧客のために占有・管理する立場にあったが、所有者である顧客が許容した範囲(同意の範囲)を超えて売却を行うことは、質権の目的を超えた処分であり、委託の趣旨に反して自己の所有物として振る舞うものといえる。したがって、顧客の同意の範囲外である売却処分は、不法領得の意思の発現としての「横領」にあたる。
結論
被告人の行為は業務上横領罪を構成する。原判決の判断は正当である。
実務上の射程
代用有価証券の預託を質権設定と認定した上で、その処分権限の範囲外での売却が横領にあたることを示した。担保目的で占有する他人の物を、担保権の範囲を超えて処分する行為が横領罪となる一般的な枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和30(あ)2823 / 裁判年月日: 昭和34年8月28日 / 結論: 棄却
原判決の認定によれば、A証券株式会社は、昭和二六年八月二一日、BからC鉱業株式会社株式三〇〇株の買付委託を受け、同日及び同月二七日の二回に、買付委託手数料を含めた買付代金当て合計金五一、七五〇円を受取り、同証券会社は翌八月二八日D証券取引所市場において、右委託を受けた三〇〇株を含む同株式六〇〇株を買付け、その市場の受渡…
事件番号: 昭和40(あ)2894 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】商品取引所法92条(当時)にいう「預託を受けて、またはその者の計算において占有する物」には、委託証拠金の代用として徴する有価証券(証拠金充用証券)は含まれない。 第1 事案の概要:被告人は商品仲買人株式会社の代表取締役として、顧客らから農産物等の売買取引に関する委託証拠金の代用たる有価証券(株券等…