判旨
商品取引所法92条(当時)にいう「預託を受けて、またはその者の計算において占有する物」には、委託証拠金の代用として徴する有価証券(証拠金充用証券)は含まれない。
問題の所在(論点)
商品仲買人が委託者から担保として徴収した「委託証拠金充用証券」を勝手に処分する行為について、商品取引所法92条(財物処分の禁止)にいう罪が成立するか。すなわち、充用証券が同条の客体である「預託を受けて、またはその者の計算において占有する物」に含まれるか。
規範
商品取引所法92条は、商品仲買人が委託者から預託を受けた財物等の処分を禁じているが、委託証拠金の代用として差し入れられた有価証券(証拠金充用証券)については、同条が規制対象とする「預託を受け、またはその者の計算において占有する物」には該当しない。したがって、当該証券を同意なく担保に供する行為は、業務上横領罪の成否はともかく、同法同条違反の罪には当たらない。
重要事実
被告人は商品仲買人株式会社の代表取締役として、顧客らから農産物等の売買取引に関する委託証拠金の代用たる有価証券(株券等)を預かり保管していた。被告人は、委託者らの書面による同意を得ることなく、これらの証券を自己の会社の借入金の担保としてほしいままに差し入れた。原審は、この行為について業務上横領罪のほか、商品取引所法92条違反の罪の成立を認め、両者を観念的競合(一所為数法)として処断した。
あてはめ
判例(最大判昭41.7.13)の趣旨に照らせば、商品取引所法92条の客体には委託証拠金の代用たる有価証券は含まれないと解される。本件で被告人が担保に供した株券等は、まさに委託証拠金に代用された「証拠金充用証券」である。そうである以上、被告人が委託者の書面による同意なくこれを担保に供したとしても、同条に規定される「預託を受けた物」を不法に処分したことにはならず、同法違反の罪は成立し得ない。原審が同罪の成立を認めた点は、法令の解釈適用を誤ったものといえる。
結論
被告人の行為に商品取引所法92条違反の罪は成立しない。原判決のうち同罪の成立を認めた部分は破棄を免れず、業務上横領罪の成否等を含め再審理を要するため、本件を原審に差し戻す。
事件番号: 昭和38(あ)1417 / 裁判年月日: 昭和41年7月13日 / 結論: 破棄差戻
商品仲買人が、商品市場における売買取引を受託するにあたり、委託者から担保として徴する委託証拠金の代用たる有価証券(いわゆる委託証拠金充用証券)は、商品取引所法第九二条にいう、商品仲買人が委託者から預託を受けて、又はその者の計算において占有する物には含まれないと解すべきである。
実務上の射程
特別法上の罰則の客体を限定的に解釈した事例。実務上、業務上横領罪と特別法違反(商品取引法や金融商品取引法等)の罪数関係を検討する際、まず各々の構成要件的客体に該当するかを厳格に判断すべきことを示唆する。特に「代用証券」の法的性質が問題となる場面で、刑罰法規の明確性の観点から参照されるべき判例である。
事件番号: 昭和40(あ)1027 / 裁判年月日: 昭和41年9月6日 / 結論: 棄却
有価証券の信用取引において、証券業者が、顧客から保証金の代用として預託を受けた有価証券につき、顧客の同意の範囲外である売却処分をしたときは、業務上横領罪が成立する。