商品仲買人が、商品市場における売買取引を受託するにあたり、委託者から担保として徴する委託証拠金の代用たる有価証券(いわゆる委託証拠金充用証券)は、商品取引所法第九二条にいう、商品仲買人が委託者から預託を受けて、又はその者の計算において占有する物には含まれないと解すべきである。
いわゆる委託証拠金充用証券は商品取引所法第九二条にいう「物」に含まれるか
商品取引所法92条,商品取引所法97条,商品取引所法155条
判旨
商品取引所法92条(当時)にいう「物」とは、売買取引の目的物である商品等を指し、委託証拠金の代用として預託された有価証券(充用証券)はこれに含まれない。したがって、委託者の書面による同意なく充用証券を担保供出・処分しても、同条違反の罪は成立しない。
問題の所在(論点)
商品取引所法92条が商品仲買人による無断処分を禁じている「物」の中に、委託証拠金の代用として預託された有価証券(証拠金充用証券)が含まれるか。
規範
商品取引所法92条が商品仲買人による「物」の処分を制限した趣旨は、売買取引に直接関係する商品(目的物)等の流出を規制することにある。これに対し、委託証拠金(およびその代用たる充用証券)は、取引から生じる債権を担保し、債務不履行時の決済に充てるためのものであり、取引の目的物自体とは性質を異にする。よって、充用証券は同条にいう「物」に該当しない。
重要事実
商品仲買人の熊本出張所長Aおよび営業部長Bは、顧客から商品先物取引の委託証拠金の代用として預託された有価証券(充用証券)を、顧客の書面による同意を得ないまま、自己の借入金の担保として差し入れ、または売却処分した。第一審および原審は、この行為が業務上横領罪とともに、商品取引所法92条(無断処分禁止)に違反すると判断した。
事件番号: 昭和40(あ)2894 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】商品取引所法92条(当時)にいう「預託を受けて、またはその者の計算において占有する物」には、委託証拠金の代用として徴する有価証券(証拠金充用証券)は含まれない。 第1 事案の概要:被告人は商品仲買人株式会社の代表取締役として、顧客らから農産物等の売買取引に関する委託証拠金の代用たる有価証券(株券等…
あてはめ
同条は商品取引所法第9章「商品市場における売買取引の受託」に置かれ、見出しも「受託者が占有する商品等の処分の制限」となっている。この文脈から、規制対象の「物」とは綿花等の商品や倉荷証券を指すと解される。本件の充用証券は、顧客の債務不履行時に換価・弁済に充てる目的で差し入れられた担保にすぎず、取引の目的物たる商品そのものではない。また、法自体に充用証券の規定はなく、受託契約準則上の運用に留まっている。したがって、本件証券を処分した行為は、同条の構成要件に該当しない。
結論
被告人らの行為について、商品取引所法92条違反の罪は成立しない。原判決および第一審判決のうち、同条違反を認めた部分は破棄を免れない。
実務上の射程
特別法上の処罰規定における「物」の解釈につき、法の編注や趣旨に鑑み限定的に解釈した事例である。実務上は、形式的に「仲買人が占有する物」に該当しても、その預託目的(担保目的か取引目的か)によって適用が否定される可能性があることを示唆している。ただし、本判決も触れる通り、別途刑法の業務上横領罪の成否が問題となる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和40(あ)1027 / 裁判年月日: 昭和41年9月6日 / 結論: 棄却
有価証券の信用取引において、証券業者が、顧客から保証金の代用として預託を受けた有価証券につき、顧客の同意の範囲外である売却処分をしたときは、業務上横領罪が成立する。