判旨
被告人に対する犯罪事実に関する質問は、犯罪事実に関する補強証拠の取調べが行われた後であれば、憲法38条1項に抵触せず、訴訟法上の違法もない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟において、被告人の自白獲得を目的とするような検察官の質問がどの段階で行われるべきか。特に、証拠調べが先行していない段階での質問が、黙秘権の侵害や訴訟手続の違法(刑事訴訟法、憲法38条1項)を構成するか。
規範
被告人に対する犯罪事実に関する質問の適法性については、当該質問がなされる時点で、既に犯罪事実に関する補強証拠(証拠調べ済みの証拠)が存在しているか否かにより判断される。自白の強要を禁ずる憲法の趣旨に鑑み、証拠調べによる一定の立証がなされた後であれば、被告人に対する質問を行うことは訴訟法上許容される。
重要事実
第一審第一回公判において、検察官から公訴事実につき取り調べ請求がなされた証拠のうち、柔道整復師作成の治療証明書の証拠調べが実施された。続く第一審第二回公判では、被害者である証人の尋問が行われた。これらの補強証拠の取調べが完了した後、検察官は被告人に対し犯罪事実についての質問を行ったが、被告人は公訴事実を否認し、自白はしなかった。
あてはめ
本件では、検察官が被告人に対して犯罪事実に関する質問を行ったのは、第一審第一回公判での治療証明書の証拠調べ、および第二回公判での被害者証人尋問の後である。すなわち、被告人に対する質問が行われた時点では、既に犯罪事実を裏付ける補強証拠の取調べが先行して完了していたといえる。したがって、手続きの順序として不当に自白を強要するものとは認められず、被告人が質問に対して否認している事実も考慮すれば、訴訟法上の違法は存在しないと解される。
結論
被告人に対する質問は、補強証拠の取調べ後になされたものであるため違法ではなく、上告を棄却する。
実務上の射程
被告人質問の時期に関する制約を示す。実務上、冒頭陳述直後の被告人質問(旧法下の実務)の適否が議論される際の指標となる。ただし、現行法下の黙秘権告知や証拠調べ順序(刑訴法291条の2、311条等)の解釈においては、自白の偏重を避けるための手続的保障として、証拠調べ後の実施が望ましいとする趣旨で引用し得る。
事件番号: 昭和26(あ)4035 / 裁判年月日: 昭和28年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法291条の権利質問手続後かつ証拠調べの開始前において、裁判官が被告人に対し公訴事実について質問することは、直ちに違法となるものではない。 第1 事案の概要:被告人の上告趣意において、第一審の訴訟手続中に裁判官が公訴事実について被告人へ質問を行ったことが憲法違反ないし訴訟手続の違法に該当す…