被告人に甲、乙両弁護人がある場合、公判調書に甲弁護人は別紙弁論要旨に基いて弁論をなしたと記載してあるのに、同公判調書の末尾に編綴してある同弁護人の弁論要旨には相被告人の弁論のみ記載してあつて、直接被告人の弁論に触れた事項が記載してなくても、右公判調書によれば乙弁護人が甲弁護人とともに同公判に出廷し、被告人のために詳細な弁論をし、また甲弁護人に対しても弁論の機会が与えられたことが明らかで、これが弁論を妨げた事跡の窺われないときは、その弁護権の制限があつたとはいえない。
弁護権を制限したと認められない事例
旧刑訴法410条11号
判旨
被告人が公判廷において犯行の重要部分(殴打の事実等)を認める供述をした場合、これを証拠として採用することは適法であり、また、司法警察官作成の訊問調書に綴り順の前後があっても、末尾に被告人の拇印がある限り証拠能力は否定されない。
問題の所在(論点)
1. 被告人が公判廷で犯行の一部を認める供述をした場合に、これを証拠として採用できるか。 2. 訊問調書の編綴順序に前後がある場合、その証拠能力が否定されるか。 3. 当事者が主張していない違法性阻却事由(正当行為)について、裁判所は判断を示す義務があるか。
規範
1. 公判廷における被告人の供述は、犯行の主要事実を認める内容を含む限り、裁判所の認定の基礎とすることができる。 2. 被告人の供述を録取した書面(司法警察官の訊問調書等)に形式上の不備(編綴順序の前後等)が見られたとしても、実質的に被告人の署名・押印(拇印)が認められるのであれば、直ちに証拠能力を欠く無効なものとはいえない。 3. 正当行為等の違法性阻却事由については、当事者による主張・弁解がなく、かつそれを疑わせる特段の事情がない場合には、裁判所が特に判断を示す必要はない。
重要事実
被告人は強盗傷人の罪で起訴された。原審の公判廷において、被告人は「(被害者を)殴って傷を負わせたことは相違ない」「密酒等をさせないために殴った」旨を供述した。また、証拠とされた司法警察官作成の被告人訊問調書は15葉から成るが、綴り順が前後している箇所があった。さらに、弁護人は原審で弁論を行っていたが、被告人は上告審において、原審が正当行為の成否を審理しなかった点や、調書の無効、弁護権の制限等を主張して争った。
あてはめ
1. 被告人は公判廷で「殴って傷を負わせた事実は相違ない」と明言しており、日時・場所における殴打という主要事実を認めているため、これを証拠採用した原判決に違法はない。 2. 司法警察官の訊問調書には綴り順の不備が見られるものの、記録138丁(第12葉)裏面末行には被告人の拇印が明確になされている。形式上の順序に乱れがあっても、被告人の供述録取としての同一性が保たれ、署名押印に代わる拇印がある以上、無効とはいえない。 3. 記録上、被告人及び弁護人が原審で正当行為の主張をした形跡はなく、正当行為を疑わせる特段の事情も認められないため、審理不尽の違法はない。
結論
被告人の公判供述や形式的不備のある調書を証拠とした原判決は適法であり、主張のない正当行為について審理しなかった点も正当であるとして、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、公判供述の証拠採用や書面の形式的不備が争点となる際の判断枠組みを示す。特に、調書の形式に些細な瑕疵(編綴ミス等)があっても、署名押印等の本質的要件を満たせば証拠能力が維持される点、及び主張のない違法性阻却事由に関する裁判所の審判義務の範囲を確認する際に有用である。
事件番号: 昭和27(あ)4928 / 裁判年月日: 昭和29年2月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠同意がある場合には、証拠調べ手続に違法があるとの主張は認められず、また証人尋問決定に際し公訴事実を明確にする目的が示されていれば尋問事項は明白であるとして、訴訟手続の適法性を認めた。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件において上告した事案。弁護人は、(1)原審が証人喚問に際し訴訟関係人の意見を…