判旨
刑事裁判における証拠調べの範囲と限度は、原則として事実審裁判所の自由裁量に属する。また、公判調書の記載に墨色や字形の相違があっても、筆跡が同一であり特段の反証がない限り、適法に作成されたものと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
事実審裁判所による証拠調べの採否・範囲の決定権限(裁量)の限界、及び公判調書の記載の真正が争点となった。
規範
1. 証拠調べの必要性及びその限度は、事実審裁判所の合理的な自由裁量に属し、特段の事情がない限り、特定の証拠を取り調べなかったとしても直ちに違法とはならない。 2. 公判調書の作成手続において、記載の形式的特徴(墨色、字形等)に一部相違があっても、筆跡の同一性が認められ、不正記入を疑うに足りる反証がない場合には、裁判所書記により正当になされたものと推定される。
重要事実
被告人は暴行傷害罪に問われ、原審において有罪判決を受けた。弁護人は、(1)第一審証人の訊問調書の証拠調べが不適法である(公判調書の墨色や字形に相違があり後日不正に記入された疑いがある)、(2)特定の証人訊問調書の証拠調べを行わなかったことは違法である、(3)被告人の供述の採証に違法がある、等と主張して上告した。
あてはめ
1. 証拠調べの限度について、特定の書類(旧刑事訴訟法上で取り調べを要するとされた書類を除く)を取り調べなかったとしても、それは事実審の自由裁量の範囲内である。 2. 公判調書の真正について、指摘された墨色や字形の相違は、直ちに後日の不正記入を推論する根拠にはならない。筆跡が他の部分と同一であれば、裁判所書記が正当に作成したものと認めるのが相当である。 3. 被告人の供述の採証についても、範囲を特定して説示しており、採証法則に違背する点はない。
結論
本件証拠調べの運用及び公判調書の作成手続に違法はなく、原判決の事実認定を維持し、上告を棄却する。
実務上の射程
裁判所の証拠調べに関する裁量権を認める実務の基本原則を示す。特に「証拠調べの限度は事実審の自由裁量に属する」というフレーズは、職権証拠調べの必要性や証拠却下の違法性を争う際の基準として引用可能である。
事件番号: 昭和26(れ)445 / 裁判年月日: 昭和26年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事手続における証拠調べの範囲の決定は、事実審の合理的な自由裁量に委ねられており、被告人の精神状態に関する再鑑定や鑑定人の尋問申請を却下したとしても、直ちに違法とはならない。 第1 事案の概要:被告人の精神状態が問題となった事案において、原審は既に提出されていた第一審公判廷での被告人の供述および鑑…