判旨
刑事訴訟法291条の権利質問手続後かつ証拠調べの開始前において、裁判官が被告人に対し公訴事実について質問することは、直ちに違法となるものではない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法291条所定の冒頭手続終了後、証拠調べに入る前に、裁判官が被告人に対して公訴事実について質問を行うことが許容されるか。黙秘権との関係や職権質問の限界が問題となる。
規範
刑事訴訟法291条による冒頭手続(権利質問及び被告人による陳述)が終了し、証拠調べに入る前の段階において、裁判官が被告人に対して公訴事実に関する質問を行ったとしても、そのことのみをもって直ちに訴訟手続が違法になるとは限らない。
重要事実
被告人の上告趣意において、第一審の訴訟手続中に裁判官が公訴事実について被告人へ質問を行ったことが憲法違反ないし訴訟手続の違法に該当する旨が主張された。本件の具体的な質問内容や時期等の詳細な事実は判決文からは不明であるが、形式的には冒頭手続終了後、証拠調べ開始前のタイミングで裁判官による質問が行われたものと推認される。
あてはめ
最高裁判所大法廷昭和25年12月20日判決の法理を引用し、刑事訴訟法291条の手続を経て、被告人に黙秘権等の権利が告知され陳述の機会が与えられた後であれば、実体的真実発見のために裁判官が質問をすることは可能である。本件においても、証拠調べ開始前の段階で質問が行われたとしても、直ちに違法と断じることはできず、上告理由となるような重大な違法は認められない。
結論
本件における裁判官による被告人への質問は適法であり、原判決に訴訟手続の違法はない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
裁判官による被告人質問のタイミングと適法性を判断する際の指針となる。実務上は、冒頭手続で被告人に権利告知がなされていることを前提に、補充的な質問の許容性を示すものとして活用できる。ただし、現在の実務では証拠調べ終了後の被告人質問(刑訴法311条)が一般的であり、本判例の射程は、黙秘権が実質的に保障されている状況下での職権行使の限界を画する点にある。
事件番号: 昭和26(あ)1929 / 裁判年月日: 昭和27年12月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に対する犯罪事実に関する質問は、犯罪事実に関する補強証拠の取調べが行われた後であれば、憲法38条1項に抵触せず、訴訟法上の違法もない。 第1 事案の概要:第一審第一回公判において、検察官から公訴事実につき取り調べ請求がなされた証拠のうち、柔道整復師作成の治療証明書の証拠調べが実施された。続く…
事件番号: 昭和41(あ)1634 / 裁判年月日: 昭和42年3月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所による被告人質問において、あらかじめ供述拒否権等の権利を告知しなかったとしても、直ちに憲法38条1項に違反するものではなく、また当事者主義にも反しない。 第1 事案の概要:原審において、裁判所が被告人に対し、供述拒否権等の被告人の権利を保障するために必要な事項(黙秘権告知など)を事前に告げる…