控訴裁判所が公判廷に出頭した被告人に対し必要と認めて事件に関連する事項を質問することは、刑訴三九三条一項の事実の取調として許されることは論旨も認めるとおりであるが、右事実の取調として被告人に質問するにあたり、所論のように訴訟関係人の意見を聞き、決定を以つて右質問を開始することを宣言しなければならないという法則は何処にも存しない。
刑訴第三九三条による事実取調の方法。
刑訴法393条,刑訴法311条
判旨
控訴裁判所が公判廷に出頭した被告人に対して事件関連事項を質問することは、刑事訴訟法393条1項の「事実の取調」として許容され、その際にあらかじめ訴訟関係人の意見聴取や開始決定の宣言、黙秘権の告知を要しない。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が被告人に対して質問を行うことが刑事訴訟法393条1項の「事実の取調」として認められるか。また、その際に開始決定の宣言や黙秘権の告知などの手続が必要か。
規範
控訴審において裁判所が被告人に対し質問を行うことは、刑事訴訟法393条1項の「事実の取調」の一態様として認められる。この取調べを開始するにあたり、訴訟関係人の意見聴取や決定の宣告を行う法的義務はなく、また、自己に不利益な答弁を強要されない旨(黙秘権)をあらかじめ説示しなくても憲法38条1項に違反しない。
重要事実
被告人および弁護人が控訴趣意に基づき弁論を行い、事実取調べの請求(証人尋問、現場検証等)およびこれに対する検察官の意見陳述がなされた。その後、控訴裁判所が被告人に対し事件に関連する事項を質問したところ、被告人がこれに対して陳述を行った。弁護人は、この質問が訴訟関係人の意見聴取や開始決定の宣言、黙秘権の告知なしに行われたことを訴訟手続の違法として主張した。
あてはめ
刑事訴訟法393条1項は控訴裁判所による事実の取調べを広く認めており、公判廷に出頭した被告人への質問もこれに含まれる。本件では、被告人側の証拠調請求や検察官の意見陳述といった一連の手続の中で質問が行われており、適法な事実取調べの一環と解される。手続面においても、事実取調べとしての質問開始にあたって特定の形式的宣言を求める法文はなく、さらに黙秘権の説示を欠いても憲法の保障する自己負罪拒否特権を直ちに侵害するものとはいえない。
結論
控訴裁判所による被告人への質問は適法な事実の取調べであり、開始宣言や黙秘権告知を欠いたとしても訴訟手続上の違法はない。
実務上の射程
控訴審における事実取調べの機動的な運用を認める実務上の根拠となる。ただし、黙秘権の説示は現在の実務運用(刑訴規則197条1項等の準用)との関係で留意が必要だが、憲法違反を否定した点において、手続の根源的な適法性を基礎付けるものとして機能する。
事件番号: 昭和26(あ)1929 / 裁判年月日: 昭和27年12月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に対する犯罪事実に関する質問は、犯罪事実に関する補強証拠の取調べが行われた後であれば、憲法38条1項に抵触せず、訴訟法上の違法もない。 第1 事案の概要:第一審第一回公判において、検察官から公訴事実につき取り調べ請求がなされた証拠のうち、柔道整復師作成の治療証明書の証拠調べが実施された。続く…