第一審裁判官が補強証拠の取調べに先立ち所論の被告人の自白調書並びに上申書(自白を内容とする)の取調べをしていても、被告人は裁判官の質問に対し公訴事実を認めて争わず右各書証を証拠とすることに同意し、かつその証拠調に異議はないと、述べているのであるから必ずしも違法とすることはできない。
第一審裁判官が補強証拠の取調に先立ち被告人の自白調書の取調をしても違法とならない例
刑訴法301条
判旨
裁判官が証拠調べの開始前に被告人に対して公訴事実について質問し、また補強証拠の取調べに先立って自白調書等の証拠調べを行うことは、被告人が同意し異議を述べていない等の状況下では必ずしも違法ではない。
問題の所在(論点)
証拠調べ開始前における被告人への公訴事実に関する質問、および補強証拠の取調べに先立つ自白証拠の取調べは、刑事訴訟法上の手続として違法か。
規範
証拠調べに入る前に裁判官が被告人に対し公訴事実について質問することは、直ちに違法とはならない。また、補強証拠の取調べに先立ち自白を内容とする書証の取調べを行うことも、訴訟手続上の同意や異議の有無等の諸事情に照らし、許容される場合がある。
重要事実
被告人は、商業協同組合の事務員として業務上保管中の金員を費消着服したとして、業務上横領罪で起訴された。第一審において、裁判官は証拠調べを開始する前に被告人に対し公訴事実についての質問を行った。さらに、裁判官は補強証拠(自白以外の証拠)の取調べを行うよりも前に、被告人の自白を内容とする調書および上申書の証拠調べを行った。これに対し被告人側は、証拠調べの順序等が不当であるとして上告した。
あてはめ
まず、証拠調べ前の質問については、判例(最大判昭25・12・20)の趣旨に照らし、必ずしも違法とはいえない。次に、証拠調べの順序について検討するに、本件において被告人は、裁判官の質問に対し公訴事実を認めて争っておらず、さらに自白調書等の各書証を証拠とすることに同意し、その証拠調べについても異議はないと述べていた。このような状況下においては、補強証拠の取調べに先立って自白証拠の取調べを行ったとしても、適法な証拠採用手続として許容される。
結論
本件の証拠調べ手続に違法はなく、原判決の維持は正当であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
自白証拠の取調べ順序(刑訴法301条等)や補強法則との関係において、被告人の同意や異議の欠如がある場合には、厳格な順序によらない手続も許容され得ることを示す。もっとも、現代の公判手続(規197条等)では証拠調べ順序が詳細に定められているため、本判決は例外的な事情がある場合の適法性を担保する趣旨と解すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)4852 / 裁判年月日: 昭和29年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白を証拠として取り調べる際、その前提として必ずしも他の全ての証拠の取り調べを終えている必要はなく、各犯罪事実について一定の補強証拠が取り調べられた後であれば、自白調書を取り調べることは適法である。 第1 事案の概要:被告人は詐欺及び横領の罪に問われた。第一審の証拠調べにおいて、裁判所はま…