仮に第一審判決が証拠となし得ない違法な証拠(伝聞証拠)を採用したものであるとしても、右証言を除くその余の証拠を綜合すれば優に犯示事実が認定し得るから、第一審判決を維持した原判決は当裁判所の判例に反した判断をしたことにはならない。(昭和二六年(あ)第四六七七号昭和二七年三月六日第一小法廷判決参照)
綜合認定をした数個の証拠中に仮りに違法な証拠(伝聞証拠)があつても判決に影響を及ばさない場合
刑訴法320条,刑訴法335条,刑訴法379条,刑訴法405条
判旨
違法な伝聞証言を証拠として採用した過誤がある場合であっても、当該証言を除いた残りの証拠によって犯罪事実を十分に認定できるときは、判決の結果に影響を及ぼさないため、原判決の破棄理由とはならない。
問題の所在(論点)
事実認定の基礎とされた証拠の中に、伝聞法則に反するなどの証拠能力を欠く証拠が混入していた場合、それだけで直ちに原判決を破棄すべき理由(刑事訴訟法上の違法)となるか。
規範
刑事訴訟法上、証拠能力のない証拠(伝聞証拠等)を事実認定に用いることは違法である。しかし、当該違法な証拠を排除したとしても、他の適法な証拠を総合することによって判示事実を優に認定し得るときは、証拠採用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反には当たらず、原判決を維持することが許容される。
重要事実
被告人が詐欺罪および食糧管理法違反で起訴された事案において、第一審は証人Cの証言を事実認定の証拠とした。しかし、当該証言中には伝聞証言が含まれており、弁護側は証拠能力のない証拠を事実認定に採用した違法があるとして上告した。なお、上告審の継続中に、公訴事実の一部である小豆に関する食糧管理法違反の点については大赦がなされた。
あてはめ
本件における証人Cの証言には、所論のとおり伝聞証言が含まれており、これを証拠として採用した点には違法がある。しかし、訴訟記録を精査すると、右証言を除外したとしても、その余の適法な証拠を総合すれば、被告人の犯罪事実(米の騙取等)は十分に認定することが可能である。したがって、証拠採用の過誤は判決の結果を左右するものではなく、原判決を維持した判断に判例違反等の適法な上告理由は存在しない。
結論
証拠能力のない証拠が採用されていても、他の証拠のみで事実認定が可能であれば、原判決を破棄する必要はない。ただし、本件では別理由(大赦)により有罪部分を破棄し、免訴および量刑の自判を行う。
実務上の射程
実務上、証拠法則違反を理由に原判決の破棄を求める際は、単に証拠能力の欠如を指摘するだけでなく、その証拠がなければ事実認定が崩れるという「判決への影響」まで論じる必要がある。答案作成上は、違法な証拠を排除した後の「証拠の十分性」を検討する際の論理として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)6688 / 裁判年月日: 昭和28年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の証拠が存在する場合、そのうち一部の証拠に証拠能力等の欠陥があったとしても、他の証拠によって犯罪事実を十分に認定できるのであれば、判決に影響を及ぼす違法はない。 第1 事案の概要:被告人が窃盗の罪に問われた事案において、第一審判決は証人Aの証言を含む複数の証拠を挙げて有罪を認定した。弁護人は、…
事件番号: 昭和23(れ)1534 / 裁判年月日: 昭和24年3月22日 / 結論: 棄却
被告人は昭和二二年一一月十五日食糧管理法被疑事件について勾留せられ其の勾留期間中同月二七日本件詐欺罪について檢察事務官の取調を受けその際録取された聽取書中の供述記載が原判決の證據として採用されていること所論の通りであるがさればとて右の聽取書を無効とする理由はなく、これを證據として採用したことが違法であるとも言い難い。
事件番号: 昭和28(あ)4855 / 裁判年月日: 昭和30年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪において、公訴事実と判決で認定された事実との同一性は、欺罔の態様や被害金額等の個別的な要素の差異にかかわらず、社会的事実としての一回性を有する限り肯定される。 第1 事案の概要:本件において、上告人は詐欺罪に問われていたが、起訴状に記載された事実と裁判所が認定した事実に一定の相違があった。弁…