証拠能力のない証拠を証拠調した違法のある場合、これを判決に証拠として掲げていない一事を以て直ちに右違法は判決に影響がないと解することはできない。
証拠能力のない証拠を証拠調した違法と判決に対する影響の有無
刑訴法379条,刑訴法305条
判旨
証拠能力のない証拠について証拠調べを施行した違法がある場合、判決に引用されていないことのみをもって直ちに「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」がないと解することはできないが、他の適法な証拠により犯罪事実が明白に認められる場合には、当該違法は判決に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
証拠能力のない証拠を証拠調べした違法がある場合において、当該証拠が判決に引用されていないことをもって、直ちに「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」がないと断定できるか。
規範
証拠能力のない証拠を証拠調べした法令違反が、刑事訴訟法379条(現行379条、旧411条等関連)の「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」に該当するか否かは、単に当該証拠が判決に引用されたか否かのみで決すべきではない。有罪判決において挙示される証拠は必要十分なものに限られ、犯罪事実の認定に供した全証拠を挙示する必要はないため、引用のない証拠であっても事実認定に影響を及ぼし得るからである。したがって、当該証拠の内容、重要性、および他の適法な証拠による事実認定の確実性を総合して、判決の結論に影響を及ぼしたかを判断すべきである。
重要事実
第一審裁判所は、伝聞例外の要件(刑訴法321条1項各号)を満たさず、かつ弁護人が同意していない司法警察員作成の供述調書および領置調書について、証拠能力がないにもかかわらず証拠調べを施行した。原審(控訴審)は、これらの書類が判決の証拠として引用されていないことを理由に、右法令違反は判決に影響を及ぼさないとして控訴を棄却したため、上告人が法令解釈の誤りを主張して上告した。
あてはめ
本件領置調書は到着原票の領置を記すのみで犯罪事実と直接の関係がない。一方、Aの供述調書は輸送証明書の不足という重要事実に触れ、公判廷での証言とも食い違うため重要な証拠といえる。しかし、本件犯罪事実は、適法に証拠調べがなされた被告人の捜査段階での供述調書および共犯者の公判廷における供述によって、明白に肯認することができる。そうであれば、証拠能力のない証拠が証拠調べの過程に混入したとしても、それによって判決の結論が左右された(明らかに影響を受けた)とは認められない。
結論
証拠能力のない証拠を引用しなかったとしても直ちに影響なしとはいえないが、本件では他の適法な証拠により事実認定が十分可能であるため、判決に影響を及ぼす法令違反には当たらない。
実務上の射程
訴訟手続の法令違反と「判決への影響」の判断枠組みを示す。答案上は、証拠排除の原則に反した証拠調べがあった場合、単に『引用されていないから無害』とせず、当該証拠の証明力的価値と他の証拠による補完関係を具体的に論じる際の指標となる。
事件番号: 昭和30(あ)2181 / 裁判年月日: 昭和32年6月18日 / 結論: 棄却
刑訴四四条一項にいう「裁判の理由」とは、主文のよつて生ずる理由を指すのであつて、証拠上の理由のごときはこれに含まれないと解すべきであるから、有罪判決において、所論のように、何故にある証拠を採用し他の証拠を排斥したかの理由、あるいは採用した証拠の証明力の判断について必しも一々これを判示することを要するものではない。
事件番号: 昭和25(あ)2492 / 裁判年月日: 昭和27年9月30日 / 結論: その他
仮に第一審判決が証拠となし得ない違法な証拠(伝聞証拠)を採用したものであるとしても、右証言を除くその余の証拠を綜合すれば優に犯示事実が認定し得るから、第一審判決を維持した原判決は当裁判所の判例に反した判断をしたことにはならない。(昭和二六年(あ)第四六七七号昭和二七年三月六日第一小法廷判決参照)