判旨
控訴審において、第一審判決の事実認定をそのまま引用しつつ法律の適用のみを是正して自判する場合、判決書に改めて事実認定の証拠を掲げる必要はない。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が第一審判決の事実認定を引用し、法律適用のみを是正して自判する場合において、改めて事実認定の証拠を判決書に記載する必要があるか。
規範
刑事訴訟法400条但書に基づき、控訴裁判所が第一審判決を破棄して自ら判決(自判)を行う場合において、第一審判決の認定した事実をそのまま引用して単に法律の適用のみを是正するにとどまるときは、事実認定の基礎となった証拠を改めて掲げる必要はない。
重要事実
被告人両名が、共謀の上でパンオピンおよびモヒ液を所持したとして、第一審判決は麻薬取締法(当時)4条3号等を適用した。これに対し、被告人側は当該薬物が同条項の麻薬に該当する証明がないと主張して控訴。原審(控訴審)は、薬物の含有成分から同法1条4号所掲の麻薬に該当すると判断し、第一審の法律解釈を誤りとして破棄自判したが、事実認定については第一審の認定を引用し、改めて証拠を掲示しなかった。被告人はこれが事実認定の証拠を欠く違法であるとして上告した。
あてはめ
原判決(控訴審)は、第一審判決の事実認定そのものは証拠上十分であり、理由不備はないと判断している。その上で、認定された薬物の含有成分を前提に、適用すべき罰則の解釈を誤った第一審判決の法律適用のみを是正したものである。このように、第一審判決の事実認定をそのまま引き継ぎ、法的評価のみを修正して自ら判決を下す場合には、既に第一審で示されている証拠を重ねて摘示する必要はないと解される。
結論
第一審の事実認定を引用して法律適用のみを是正する破棄自判においては、事実認定のための証拠を掲げる必要はなく、原判決に違法はない。
実務上の射程
控訴審の自判における事実認定の証拠記載の要否に関する指針である。第一審判決と異なる事実を認定する場合(刑訴法335条1項の準用)とは異なり、事実認定に変更がない法律適用の変更のみのケースでは、判決書の簡略化が認められることを示している。
事件番号: 昭和27(あ)4223 / 裁判年月日: 昭和31年7月18日 / 結論: 棄却
一 麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号)第一四条、第五九条の規程は憲法第三八条第一項に違反しない。 二 第一審判決が懲役刑の執行猶予を言い渡した場合に、控訴裁判所が何ら事実の取調をしないで、第一審判決を量刑不当として破棄し、自ら控訴記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて、懲役刑(実刑)の言渡をしても、刑訴第四〇…