一 論旨第一點は、原審公判調書に被告人が「公判廷で身体の拘束を受けずとの記載がない」ことを指摘し、被告人の法廷における身体不拘束は「たとえ保釋中であると否とを問わず一つに之を公判調書に明記してこれを證明せなければならない」とし、この點の不備を以て刑事訴訟法第四一一條の事由あるものとするのである。しかしながら、本件公判期日當時被告人は保釋中だつたのであつて、その場合に公判調書に何らの記載がなければ被告人が身体の拘束を受けなかつたことが推定される旨は、當裁判所の判例とするところであつて(昭和二三年(れ)第一三號事件同年三月三〇日言渡第三小法廷判決參照)論旨は刑事訴訟法第四〇五條の上告理由にならない。 二 論旨第二點は、憲法第三八條第三項を引用するが、もし補強證據はそれのみで犯罪事實全部を肯定し得る程度の證明力を持つものでなければならないという抽象論であるならば、その然らざることは當裁判所判例の繰返し明示するところであるし、(昭和二三年(れ)第二五九號事件同年六月一日言渡第三小法廷判決、昭和二二年(れ)第一五三號事件昭和二三年六月九日言渡大法廷判決、昭和二三年(れ)第九四七號事件同年一〇月二一日言渡第一小法廷判決、昭和二三年(れ)第七八六號事件同年一二月七日言渡第三小法廷判決參照)もしまた、補強證據は犯罪事實の一部についてのものでもよいが、その部分については充分の證明力のあるものでなくてはならず、原判決舉示の傍證にはそういう證明力がないという具体的主張であるならば、それは原審の採證判斷に對する非難にほかならず、いづれにせよ上告の理由にならない。
一 被告人が公判廷において身体の拘束を受けなかつた旨の記載を欠く公判調書と上告の適否 二 自白と補強證據との關係
刑訴法48條,刑訴法405條,刑訴法411條,憲法38條3項,刑訴應急措置法10條3項
判旨
自白の補強証拠は、犯罪事実の全部を肯定し得る程度の証明力を有する必要はなく、犯罪事実の一部を裏付けるもので足りる。また、保釈中の被告人が公判廷で身体の拘束を受けなかった旨の調書記載がない場合でも、特段の事情がない限り身体不拘束の状態であったと推定される。
問題の所在(論点)
1. 自白の補強証拠は、犯罪事実の全部を証明できる程度のものである必要があるか(補強証拠の範囲と程度)。 2. 保釈中の被告人について、公判調書に身体不拘束の記載がないことが違法となるか。
規範
憲法38条3項及び刑事訴訟法319条2項にいう補強証拠は、自白にかかる犯罪事実の全部をそれ自体で肯定し得るほどの証明力を持つものである必要はない。自白の真実性を保障し得る程度に、犯罪事実の一部を裏付けるものであれば足りる。また、証拠の証明力判断は事実審の合理的な採証判断に委ねられる。
重要事実
被告人が起訴された事案において、第一審・控訴審ともに被告人の自白および傍証に基づき有罪を認めた。被告人側は、原判決が掲げた傍証には犯罪事実を十分に証明する力がなく、補強証拠として不十分であると主張して上告した。また、公判調書に「被告人が公判廷で身体の拘束を受けなかった」旨の記載がないことも手続上の不備として主張された。なお、本件公判当時、被告人は保釈中であった。
あてはめ
補強証拠の程度について、弁護人は「犯罪事実全部を肯定し得る程度の証明力」を求めているが、判例の趣旨に照らせば、補強証拠は自白と相まって犯罪の真実性を保障すれば足り、それ単独で全事実を立証する必要はない。原判決が掲げた各傍証が、犯罪事実の一部について自白の真実性を裏付けている以上、補強証拠としての適格に欠けるところはない。また、身体拘束の有無に関しては、被告人が保釈中であったという事実がある以上、特段の記載がなくとも身体の拘束を受けていなかったことが事実上推定されるため、調書の記載不備を理由に判決を破棄すべき事由には当たらない。
結論
自白の補強証拠は犯罪事実の一部を裏付けるもので足りるため、本件の傍証に十分な証明力があるとした原判決に憲法違反や証拠法則違反はない。また、保釈中の被告人の身体不拘束は推定されるため、調書の記載不備も上告理由とならない。上告棄却。
実務上の射程
実務上、自白の補強法則(憲法38条3項、刑訴法319条2項)の論述において、補強の程度を「自白の真実性を担保するに足りる程度(実質説・判例)」と定義した後のあてはめで、本判決の「犯罪事実の一部で足りる」というフレーズを引用して構成する。また、公判手続の適法性に関しては、保釈という外形的状況から身体不拘束を推定する判断枠組みとして参照される。
事件番号: 昭和25(あ)351 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠は、犯罪構成要件のすべてにわたって存在する必要はなく、自白と他の証拠を総合して犯行事実が認定できれば、犯人であることや共謀の事実は自白のみで認定しても憲法38条3項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が窃盗罪で起訴された事案において、第一審判決は被告人の公判廷における自白に基づき…