本件被告人Aは、昭和二四年五月一七横濱地裁横須賀支部において、懲役一年に處する旨の判決の宣告を受けたものである。そして、禁錮以上の刑に處する判決の宣告があつた後は、刑訴法第三四四條により、保釋の請求があつても、必ずこれを許さなければならないということはなく、裁判所が適當と認めた場合に限り、職權を以て保釋を許せば足りるものであり、從つて、保釋の請求を却下することは、その理由の如何を問はず違法でないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二四年新(つ)第九號同年一二月二〇大法廷決定)。されば前記判決の宣告後なした保釋の請求を却下した右支部の決定並にこれを維持した原決定を違法であるとする本件特別抗告は採用することができない。
禁錮以上の刑の宣告を受けた者の保釋の請求を却下することの正否
刑訴法344條,刑訴法90條,刑訴法89條
判旨
禁錮以上の刑の宣告を受けた後は、刑事訴訟法344条により権利保釈の規定が適用されないため、裁判所が適当と認めた場合に職権で保釈を許すことができるに過ぎない。
問題の所在(論点)
禁錮以上の刑に処する判決の宣告を受けた被告人について、刑事訴訟法344条の適用がある場合に、保釈請求を却下することが違法となるか(権利保釈が認められるか)。
規範
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があった後は、刑事訴訟法344条の規定により、同法89条が定める権利保釈の規定は適用されない。したがって、保釈の請求があっても必ずこれを許さなければならない義務はなく、裁判所が適当と認めた場合に限り、職権をもって保釈を許せば足りる(職権保釈)。
重要事実
被告人Aは、昭和24年5月17日に横浜地方裁判所横須賀支部において、懲役1年に処する旨の判決の宣告を受けた。その後、被告人側から保釈の請求がなされたが、同支部はこれを却下する決定を行い、原審もこの決定を維持した。これに対し、被告人側が保釈請求却下の違法を主張して特別抗告を申し立てた事案である。
事件番号: 昭和24新(つ)9 / 裁判年月日: 昭和24年12月20日 / 結論: 棄却
被告人は本年五月一七日懲役二年の刑に處する判決を受けたのであるから、その後に於ては刑訴第三四四條により、刑訴第八九條の適用はなく、保釋の請求があつても必ずこれを許さなければならないというとはない。裁判所は適當と認めた場合に限り職權を以て保釋を許せば足りる。従つて横濱地裁横須賀支部が保釋請求を却下したことは違法ではない。…
あてはめ
本件被告人Aは、既に懲役1年という禁錮以上の刑に処する判決の宣告を受けている。この事実は、刑事訴訟法344条(現行法でも同様の趣旨)に該当し、権利保釈の適用を排除する事由となる。この段階においては、保釈の許否は裁判所の裁量に委ねられた職権保釈の問題となり、裁判所が適当と認めない限り、保釈を許さないことができる。したがって、裁判所が保釈請求を却下したことは、その理由のいかんを問わず、裁量の範囲内として適法であると解される。
結論
禁錮以上の刑の宣告後は権利保釈の規定は適用されず、裁判所が職権で保釈を許さなかったとしても違法ではない。したがって、本件特別抗告を棄却する。
実務上の射程
一審判決で実刑判決が出た後の保釈(いわゆる「344条保釈」)の法的性質が職権保釈であることを明示している。答案上は、実刑宣告後に被告人の身分が未決勾留から刑の執行待機へと移行する過程で、権利保釈が否定される根拠として本判例(および引用されている大法廷決定)を援用する。保釈却下決定に対する不服申し立てにおいて、裁量権の逸脱・濫用がない限り違法とはならないことを論じる際の出発点となる。
事件番号: 昭和24新(つ)92 / 裁判年月日: 昭和25年2月2日 / 結論: 棄却
高等裁判所のなした保釋請求却下決定に對する即時抗告は裁判所法第七條、刑訴應急措置法第一八條に該當しないことは明白であり、他に本件のような抗告を最高裁判所に申立てることを許した法律の規定はないから本件抗告は不適法であるといわなければならない。
事件番号: 昭和31(し)64 / 裁判年月日: 昭和31年12月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実刑判決の言渡しを受けた被告人については、格別の理由がない限り、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるものと認められ、権利保釈の除外事由(刑訴法89条3号)に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、東京高等裁判所において懲役7年の実刑に処する旨の判決言渡しを受けた。その後、被告人は保釈請求を行った…
事件番号: 昭和44(し)64 / 裁判年月日: 昭和44年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈請求却下の裁判およびこれを維持した決定に対し、憲法13条違反等の主張があったとしても、それが裁判の結果に影響を及ぼさない場合や、実質的に単なる訴訟法違反の主張にすぎない場合は、特別抗告の理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人側が保釈を請求したが却下され、その却下裁判を維持した原決定に対し…
事件番号: 昭和23(つ)33 / 裁判年月日: 昭和24年2月9日 / 結論: 棄却
原審は、なお勾留繼続の必要ありとして保釈申請却下の決定をしたのである。これに對し論旨は本件被告人に對しては逃亡又は罪證湮滅の虞は全然ないのだから、これに對し保釈を許さないのは不當だというのである。これは結局右の虞ありや否に關する原審の事實認定を批難するに歸着するから當裁判所に對する特別抗告の理由としては適法でない。