被告人は本年五月一七日懲役二年の刑に處する判決を受けたのであるから、その後に於ては刑訴第三四四條により、刑訴第八九條の適用はなく、保釋の請求があつても必ずこれを許さなければならないというとはない。裁判所は適當と認めた場合に限り職權を以て保釋を許せば足りる。従つて横濱地裁横須賀支部が保釋請求を却下したことは違法ではない。同支部が右の請求を却下した決定の理由並びに原決定がこれを維持した理由が所論のように誤つていたとしても、その結果においては正當であるから、論旨は採用することができない。
刑訴法第三四三條により收監された者に對する同法第八九條の適用
刑訴法89條,刑訴法343條,刑訴法344條
判旨
有罪判決の宣告により保釈が失効し収監された被告人に対しては、刑事訴訟法344条により同法89条の権利保釈の規定は適用されず、裁判所が適当と認める場合に限り職権で保釈を許し得るにすぎない。また、被告人が自白を翻すことを罪証隠滅と解して保釈を却下することは憲法38条1項の精神に反するおそれがあるが、結論として権利保釈が認められない以上、却下自体は適法である。
問題の所在(論点)
有罪判決の宣告を受けて収監された被告人に対し、権利保釈(刑訴法89条)の規定が適用されるか。また、被告人が自白を翻すことを罪証隠滅とみなして保釈を却下することは憲法に違反するか。
規範
刑事訴訟法344条によれば、被告人が有罪判決を受けた後においては、同法89条(権利保釈)の規定は適用されない。この場合、裁判所は、適当と認めた場合に限り、職権をもって保釈を許すことができる(職権保釈)。したがって、有罪判決後の被告人には権利としての保釈請求権は認められず、裁判所の裁量により保釈の可否が決定される。
重要事実
強盗予備罪等で起訴された被告人は、第一審において懲役2年の有罪判決を宣告された。この宣告により、従前の保釈は失効し、被告人は刑事訴訟法343条に基づき収監された。弁護人は即日、改めて保釈を請求したが、第一審裁判所は、被告人が一旦なした自白を翻すことは罪証隠滅にあたると解し、同法89条3号・4号に該当することを理由に保釈を却下した。抗告審もこれを支持したため、弁護人が特別抗告を申し立て、自白の翻転を理由とする却下は憲法38条1項に違反すると主張した。
事件番号: 昭和24新(つ)7 / 裁判年月日: 昭和25年2月2日 / 結論: 棄却
本件被告人Aは、昭和二四年五月一七横濱地裁横須賀支部において、懲役一年に處する旨の判決の宣告を受けたものである。そして、禁錮以上の刑に處する判決の宣告があつた後は、刑訴法第三四四條により、保釋の請求があつても、必ずこれを許さなければならないということはなく、裁判所が適當と認めた場合に限り、職權を以て保釋を許せば足りるも…
あてはめ
本件被告人は、懲役2年の刑に処する有罪判決を受けたものであるから、刑訴法344条により、権利保釈を定めた89条の適用は排除される。裁判所は職権で保釈を許し得るにとどまり、必ず許さなければならない義務はない。原決定において「自白を翻すことが罪証隠滅にあたる」とした点は、勾留による自白の強要を招くおそれがあり、憲法38条1項の精神に副わない不適切な理由づけといえる。しかし、法的に権利保釈が適用されない以上、保釈を許さなかったという結論自体は適法であり、結果において正当である。
結論
有罪判決を受けた被告人には権利保釈の規定は適用されず、裁判所が適当と認めた場合にのみ職権で保釈し得る。原決定の理由は不適切だが、保釈請求を却下した結論は正当である。
実務上の射程
刑訴法344条の適用により、一審判決後の保釈が「裁量保釈」の性質を帯びることを明確に示した。答案上は、保釈の要件を検討する際、手続段階(判決前後)に応じて適用条文(89条か344条か)を使い分ける際の根拠となる。また、被告人の防御権行使(自白の翻転)を罪証隠滅と評価することへの憲法的制約を示唆する。
事件番号: 昭和31(し)64 / 裁判年月日: 昭和31年12月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実刑判決の言渡しを受けた被告人については、格別の理由がない限り、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるものと認められ、権利保釈の除外事由(刑訴法89条3号)に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、東京高等裁判所において懲役7年の実刑に処する旨の判決言渡しを受けた。その後、被告人は保釈請求を行った…
事件番号: 昭和44(し)64 / 裁判年月日: 昭和44年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈請求却下の裁判およびこれを維持した決定に対し、憲法13条違反等の主張があったとしても、それが裁判の結果に影響を及ぼさない場合や、実質的に単なる訴訟法違反の主張にすぎない場合は、特別抗告の理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人側が保釈を請求したが却下され、その却下裁判を維持した原決定に対し…
事件番号: 昭和43(し)65 / 裁判年月日: 昭和43年9月11日 / 結論: 棄却
勾留中の被告人がその事件につき実刑の有罪判決を受けこれが確定したときは、もはや保釈の問題を生じない。
事件番号: 昭和23(つ)33 / 裁判年月日: 昭和24年2月9日 / 結論: 棄却
原審は、なお勾留繼続の必要ありとして保釈申請却下の決定をしたのである。これに對し論旨は本件被告人に對しては逃亡又は罪證湮滅の虞は全然ないのだから、これに對し保釈を許さないのは不當だというのである。これは結局右の虞ありや否に關する原審の事實認定を批難するに歸着するから當裁判所に對する特別抗告の理由としては適法でない。