しかし刑法第二四〇條後段の罪は、強盜犯人が強盜行爲を爲すに人を殺害した場合に成立する結果犯であつて、殺害についての犯意のあることを要件としないものであるから、被告人はA殺害の犯意を有しなかつたものとしても共同正犯たる關係上Bの行爲により發生したA殺害の點について其責を負わなければならない。
共犯者の一人が爲した強盜殺人罪に對する他の者の罪責
刑法60條,刑法240條後段
判旨
強盗致死罪は強盗の機会に人を死亡させた場合に成立する結果的加重犯であり、死の結果について殺意を要しない。共謀に基づき強盗を実行した者は、他の共同正犯者が人を殺害した場合、自身に殺意がなく殺害行為に直接関与していなくても、共同正犯として強盗殺人の責を負う。
問題の所在(論点)
強盗の共同正犯において、一部の者が殺害行為に及んだ場合、殺意がなく殺害行為を分担していない他の共犯者に強盗致死罪(刑法240条後段)の共同正犯が成立するか。
規範
刑法240条(旧刑法240条)後段の罪は、強盗犯人が強盗行為に際して人を殺害した場合に成立するものであり、死の結果に対する犯意(殺意)を要しない。また、二人以上が共謀して犯罪の実行行為に及んだ場合、一部の者が直接殺害行為を行っていなくとも、他の共同正犯者の行為によって生じた結果について連帯して刑事責任を負う(一部実行全部責任の原則)。
重要事実
被告人は、共犯者B及びCと共謀の上、財物を強取する目的で被害者A宅に侵入した。強盗の実行に際し、共犯者Bが所持していた刀で被害者Aおよびその妻を突き刺し、Aを殺害した。その間、被告人は被害者の身辺にあった金品を強取していた。被告人は殺害行為に直接手を下しておらず、殺害の犯意もなかったと主張して、強盗致死罪(強盗殺人)の成立を争った。
事件番号: 昭和24(れ)1012 / 裁判年月日: 昭和24年7月14日 / 結論: 棄却
刑法第二四〇條後段は「強盜人ヲ死ニ致シタルトキハ死刑又ハ無期懲役ニ虞ス」と規定して殺意の有無を問はず強盜犯人が暴行の結果人を死に致せば強盜殺人罪の成立することを明らかにしているのである。それは暴行脅迫によつて他人の財物を強奪する強盜というやうな危險極まる兇悪な犯罪を敢てするものが、その暴行によつて人を死亡せしめるなら、…
あてはめ
まず、強盗致死罪(強盗殺人罪)は強盗の機会に人を死亡させたという結果によって成立するものであり、必ずしも殺意を必要としない。本件において、被告人はBらと強盗の共謀を行い、ともに被害者宅に侵入して実行行為に及んでいる。BがAを殺害した行為は、この共謀に基づく強盗の遂行に際して行われたものである。したがって、被告人が直接殺害行為に加担していないとしても、共同正犯の関係にあるBの行為およびその結果であるAの死亡について、被告人は法的な責任を免れることはできない。被告人が金品を強取した事実は、強盗の役割分担にすぎず、共犯全体の責任を基礎付ける。
結論
被告人は殺害の犯意がなく、直接手を下していない場合であっても、強盗致死罪(強盗殺人罪)の共同正犯としての責任を負う。
実務上の射程
強盗致死傷罪における殺意の要否、および結果的加重犯の共同正犯の成否に関するリーディングケースである。答案上では、240条が殺意のある場合(強盗殺人)とない場合(強盗致死)を包含することを前提としつつ、共謀の範囲内に強盗が含まれる限り、それから派生した死傷結果について共謀者全員が責任を負う(共謀の射程)を論じる際の論拠として使用する。
事件番号: 昭和23(れ)720 / 裁判年月日: 昭和23年11月4日 / 結論: 棄却
一 數人が強盜の罪を犯すことを共謀して各自がその實行行爲の一部を分擔した場合においては、その各自の分擔した實行行爲は、それぞれ共謀者全員の犯行意思を遂行したものであり、又各共謀者は他の者により自己の犯行意思を遂行したものであるから、共謀者全員は何れも強盜の實行正犯としてその責任を負うべきものである。そして強盜共謀者中の…
事件番号: 昭和25(れ)1112 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
強盗致死の一罪と認むべき所為につき、強盗未遂と強盗致死の両規定を適用した擬律錯誤があつても、これを連続犯として結局強盗致死の一罪で問擬している場合には、右擬律錯誤は未だ原判決破棄の理由と為すに足らない。