一 本件公判請求書が引用した司法警察官意見書に契印のないことは所論のとおりであるけれどもそれがために、右書類は、所論のように直ちに無効となるものと解すべきではない。本件記録添付の右司法警察官意見書についてみるに、その筆跡墨色及び記載内容の續き具合からして、右意見書は全部司法警察官代理巡査部長Aが作成したものであることを認め得るのであるからその書類としての効力を欠くるところのないものと解すべきである。この理は、右意見書が公判請求書の一部を成すからといつて、別異に解すべき根據もない。 二 辯護人の選任に關する刑訴應急措置法第四條は、憲法第三七條第三項に違反するものでないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二四年(れ)第六八七號、同年一一月二日大法廷判決)しかして、本件はいわゆる強制辯護の事件ではなく、かつ、被告人は、原審において辯護人の選任を請求した形跡のないことは、記録上明らかであるから、原審が辯護人を付することなくして本件を審判したことは刑訴應急措置法第四條に照して正當であつて、これをもつて所論のように憲法違反であるということはできない。
一 公判請求書に引用した契印を欠く司法警察官意見書の効力 二 刑訴應急措置法第四條の合憲性――強制辯護を要しない事件において辯護人なくして審判したことの正否
舊刑訴法71條2項,舊刑訴法334條,舊刑訴法410條10號,刑訴應急措置法4條,憲法第37條3項
判旨
司法警察官意見書に契印がない場合でも、筆跡や記載内容の連続性から同一の作成者によるものと認められるときは、直ちに無効とはならない。また、必要的弁護事件でなく、かつ被告人が選任を請求しない場合に、弁護人なしで審判することは憲法37条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 契印のない司法警察官意見書(公判請求書の一部)の有効性 2. 必要的弁護事件以外の事件において、被告人が選任請求を行わない場合に弁護人を付けずに審判を行うことの憲法37条3項適合性
規範
1. 刑事手続における書類の有効性については、契印等の形式的な不備があっても、筆跡、墨色、記載内容の連続性等からその書類が特定の作成者によって一貫して作成されたことが客観的に認められる場合には、書類としての効力を否定すべきではない。 2. 憲法37条3項の弁護人依頼権は、必要的弁護事件でない限り、被告人が自らその選任を請求しない場合にまで裁判所に弁護人の付与を義務付けるものではない。
重要事実
被告人が起訴された際、公判請求書に引用された司法警察官意見書に契印が欠けていた。また、原審において本件は強制弁護(必要的弁護)の事件ではなく、被告人側から弁護人の選任を請求した形跡もなかったが、弁護人が付されないまま審理が進められた。弁護人は、書類の不備による無効および弁護人なしでの審判が憲法37条3項に違反するとして上告した。
あてはめ
1. 本件の司法警察官意見書は、契印こそないものの、筆跡、墨色、記載内容の続き具合を検討すれば、司法警察官代理巡査部長Aが全部を作成したものであることが認められる。したがって、書類としての実質的な正確性と同一性が担保されており、有効であると解される。 2. 本件は必要的弁護事件に該当しない。また、被告人は原審において弁護人の選任を請求していない。したがって、刑事訴訟応急措置法4条に基づき弁護人なしで審理を進めることは、被告人の権利を不当に侵害するものではない。
結論
1. 契印の欠如は書類を直ちに無効とするものではなく、本件意見書は有効である。 2. 必要的弁護事件でなく選任請求もない場合に弁護人を付さない審理は、憲法37条3項に違反しない。
実務上の射程
手続上の形式的不備が実質的な有効性に及ぼす影響を判断する際の基準として、書類の作成状況の客観的証拠(筆跡・内容の連続性)を重視する実務指針となる。また、私選・国選弁護の選任がなされない場合の裁判所の義務の限界を示す射程を持つ。
事件番号: 昭和26(あ)118 / 裁判年月日: 昭和27年8月5日 / 結論: 棄却
刑訴施行法第五条は、憲法第三七条第三項に違反しない。