一 刑訴應急措置法第四條は憲法第三七條第三項に違反しない。 二 刑訴應急措置法第六條第一項には「引致された被告人又は被疑者に對しては直ちに犯罪事実の要旨及び辯護人を選任することができる旨を告げなければならない」と規定しているのてある。ところで本件記録を調査すると被告人は最初司法警察官より取調を受けた際辯護人を選任し得る旨を告げられているのみならず、更に公判請求の直後判事の勾留訊問の行われたときにも判事から辯護人を選任し得る旨及び刑訴應急措置法第六條第一項の手續は完全に履踐されているのである。論旨は右第六條第一項の規定は刑訴第二七二條と全然同一の内容を有するものと解すべきであるから原審裁判所が辯護人の選任がなかつたに拘らず、被告人に對して辯護人を選任し得る旨を告げずに審理を遂げたことは前示第六條第一項の規定に違反するものであると主張するのであるが、舊刑訴當時においては刑訴應急措置法第六條第一項の規定により辯護人を選任し得る旨を告げるだけで辯護人の選任について被告人の注意を喚起するに充分であると認めていたので、新刑訴の如く裁判所がその告知をする制度を採用していなかつたのである。新刑訴は前記第六條第一項の規定では被告人の保護がまだ十分でないと認めて第二七二條等の規定を新設して前記刑訴應急措置法の規定を廢止しているのである。從つて前記第六條第一項の規定が新刑訴の前記規定と同一の注意を包含するものと解すべしとする所論は到底採用できない。然らば原審が被告人に對し辯護人を選任し得る旨を告げずに審理を遂げたことは何等刑訴應急措置法第六條第一項に違反するところはないのであるから、論旨はその理由がない。 三 憲法第三七條第三項には「被告人が自らこれを依頼することができないとき」と規定し辯護人を依頼することのできない事由を明記していないけれども、被告人が自ら辯護人を依頼できないことについては、必ず依頼できないといえるだけの相當の事由がなければならない譯である。そしてその事由は貧困その他の事由という廣い表現によつて充分網羅することができるのであるから前示刑訴應急措置法第四条に「貧困その他の事由」と規定したのは單に憲法の規定の趣旨を明かにしたに過ぎないものであつて、別に憲法の規定に反して新たな條件をつけたものということはできないのである。
一 刑訴應急措置法第四條の合憲性 二 刑訴應急措置法第六條の告知義務 三 憲法第三七條第三項にいわゆる「被告人が自らこれを依頼することができないとき」の意義
刑訴應急措置法4條,刑訴應急措置法6條1項,憲法37條3項,刑訴法272條
判旨
憲法37条3項が規定する国選弁護制度は、被告人の請求を要件とする法律(旧刑訴応急措置法4条)を介して運用されても、同憲法に違反しない。
問題の所在(論点)
刑事被告人が貧困等により自ら弁護人を依頼できない場合に、被告人の「請求」がなければ国選弁護人を付さないとする法律の規定は、憲法37条3項に違反しないか。
規範
憲法37条3項の「被告人が自らこれを依頼することができないとき」とは、単に依頼が困難であるだけでなく、相当の事由がある場合を指す。また、弁護人の選任は被告人の自由意思に委ねられるのが原則であり、強制弁護事件を除き、被告人に選任の意思がない場合にまで国が積極的に弁護人を付す必要はない。したがって、国が被告人の請求を待って弁護人を付す制度とすることは、憲法の趣旨を具体化したものであり合憲である。
重要事実
被告人は、貧困のため自ら弁護人を依頼することができなかったが、公判請求直後の勾留質問において判事から弁護人選任権および国選弁護請求権(旧刑訴応急措置法4条)の告知を受けていた。しかし、被告人は自ら弁護人を選任すると述べたものの、実際には選任せず、また国選弁護人の請求も行わなかった。第一審および原審は、強制弁護事件ではない本件において、弁護人がいないまま審判を行った。
あてはめ
被告人が自ら弁護人を依頼できない事由(貧困等)の有無は、被告人側の事情であり国が当然に知ることは困難である。本件被告人は、裁判所から権利の告知を十分に受けており、いつでも請求が可能であったにもかかわらず、自らの意思で請求を行わなかった。本件は強制弁護を要する事件ではなく、被告人に選任の意思がない以上、裁判所が職権で弁護人を付さなかったことは憲法の趣旨に反しないと評価される。
結論
被告人の請求を国選弁護の要件とする規定は合憲であり、請求がない場合に弁護人なしで審理を進めた手続に憲法違反はない。
実務上の射程
国選弁護制度における「被告人の請求」という要件の合憲性を基礎付ける。憲法37条3項が絶対的・無条件に国による弁護人付与を義務付けているわけではないことを示す際の根拠となる。
事件番号: 昭和25(あ)1712 / 裁判年月日: 昭和26年7月3日 / 結論: 棄却
原審裁判所が控訴申立事件を受理するや直ちに被告人に弁護人の選任を請求することができる旨告知せず、又被告人も亦これが請求をしないで控訴趣意提出期間を経過しその後になつて始めて被告人は右請求をなし原裁判所が弁護人を選任したため、同弁護人は控訴趣意書を提出することができなくなつたからといつて、原裁判所は、被告人に対しその弁護…