原判決摘示の被告人の供述部分は、寧ろ被告人が假指定の事實を知らなかつた有力なる反證と見るのが相當である。しかるに原判決が被告人のその前後の供述部分を無視抹殺して全然反對の立證趣旨にこれを供したのは實驗則に反して事實を認定した違法があるものといわざるを得ない。
被告人の供述の一部を前後の關係を無視抹殺して反對の立法趣旨に供した場合と實驗則違反
舊刑訴法336條,舊刑訴法337條
判旨
被告人の供述の一部のみを抽出し、供述全体の趣旨と正反対の事実を認定することは、経験則に反する事実認定として違法である。
問題の所在(論点)
公判廷における被告人の供述を証拠として採用する際、その一部のみを引用して供述全体の趣旨と相反する事実を認定することが、経験則に照らして許されるか。
規範
事実の認定は、証拠の総合的な評価に基づかなければならない。特に被告人の供述を証拠とする場合、その一部のみを恣意的に抽出して、供述全体の趣旨や文脈と相容れない正反対の事実を認定することは、経験則(採証法則)に反し許されない。
重要事実
被告人は、公職追放の仮指定を受けた事実を知りながら執務を継続したとして起訴された。原審は、被告人が「官報を調べた」等の供述をしたことを根拠に、仮指定の事実を知っていたと認定した。しかし、被告人の供述の全体は「官報を調べたが名前が載っていなかったので、指定されていないと誤信し、上司にも相談した上で勤務を継続した」という内容であり、知らなかったことを一貫して主張するものであった。
事件番号: 昭和23(れ)1455 / 裁判年月日: 昭和23年12月23日 / 結論: 棄却
一 昭和二二年勅令第一號(公職に關する就職禁止退官退職等に關する勅令)第一六條第一項第一號に「調査表の重要な事項について……事實をかくした記載をした者」とあるのは、調査表に記載すべき重要な事項について、實在する事實を、その實在することを確認しながら、記載しなかつたものという意味である。この認識の外に特定の事實を他人に知…
あてはめ
原判決は、被告人が「官報を30分かけて調べた」等の断片的な供述を捉えて、知情の根拠としている。しかし、被告人の供述全体は、軍歴調査の経緯や、官報に名前がなかったため安堵して上司に報告したこと、それゆえに勤務を継続したという一連の経緯を説明するものである。この供述内容は、むしろ仮指定の事実を知らなかったことを有力に裏付ける反証となるべきものである。これらを無視して正反対の認定に用いるのは、合理的で客観的な証拠評価の枠組みを逸脱している。
結論
原判決には経験則に反して事実を認定した違法があるため、破棄を免れない。
実務上の射程
証拠評価における自由心証主義の限界を画する判例である。答案上は、不合理な事実認定を争う際に「供述の断片的な抽出」や「供述の全体的趣旨の無視」を指摘し、経験則違反を論じる際の根拠として用いることができる。
事件番号: 昭和24(れ)226 / 裁判年月日: 昭和24年6月13日 / 結論: 破棄差戻
一 証人の陳述中証人が実験した事実、又は実験した事実によつて推測した事項の陳述ではなく、単に意見を表示したにすぎないとみられる部分は、証拠に採用することができない。 二 然るに原判決はその證據説明中にかような證人の意見に過ぎない陳述をも挿入しそれを「然し」という言葉で接續して、その前後の供述の順序を變えて、記録に現はれ…
事件番号: 昭和24(れ)425 / 裁判年月日: 昭和24年7月23日 / 結論: 棄却
記録を調べて見るに、所論書類はその編綴の個所から見て、原審第一回公判期日前に原裁判所え提出されたことが伺はれるし、又原審公判廷では右書類について證據調をしなかつたことは所論のとおりである。しかし所論の各書類は本件訴訟關係人から證據物又は證據書類として證據調を求める趣旨の下に提出されたものとは到底認めることができない。從…
事件番号: 昭和23(れ)1862 / 裁判年月日: 昭和24年6月13日 / 結論: 棄却
一 本件被告人を覺書該當者として假指定したことが、中央公職適否審査委員會又は内閣總理大臣の錯誤にもとずいてなされたか否か、從つてそれが無効であるか否かを審判することの權限は、日本の裁判所に屬しない。 二 正當の權限を有する内閣總理大臣が、昭和二二年閣令内務省令第一號第五條第一項の解釋として、本件被告人を假指定したときの…
事件番号: 昭和26(あ)2230 / 裁判年月日: 昭和26年7月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】昭和22年勅令第1号15条にいう「政治上の活動」は、目的犯のように政治的目的ないし政治的意図を要件とするものではない。政府等の施策活動に関する論議であり、現実の政治に影響を与える行動であれば、主観的な目的の有無にかかわらず同条の活動に該当する。 第1 事案の概要:被告人が行った論議が、昭和22年勅…