記録を調べて見るに、所論書類はその編綴の個所から見て、原審第一回公判期日前に原裁判所え提出されたことが伺はれるし、又原審公判廷では右書類について證據調をしなかつたことは所論のとおりである。しかし所論の各書類は本件訴訟關係人から證據物又は證據書類として證據調を求める趣旨の下に提出されたものとは到底認めることができない。從つて原裁判所が右書類につき證據調をしなかつたからというて所論のような違法はない。
公判期日前に訴訟關係人から提出された書類が證據調を求める趣旨と認められない場合の取調の要否
舊刑訴法342條,舊刑訴法410條第13號
判旨
裁判所が記録上存在する書類について証拠調べを行わなかったとしても、訴訟関係人から証拠調べを求める趣旨で提出されたと認められない限り、違法ではない。また、公職追放者であることの認識を欠くとの主張は犯罪構成要件を欠く旨の主張であり、法律上犯罪の成立を阻却すべき事由の主張には当たらない。
問題の所在(論点)
1.記録に編綴されているが証拠調べの申し出が不明確な書類について、裁判所が職権で証拠調べを行わないことが違法か。2.犯意の欠如や中止未遂に準ずるとの主張が、判決において個別の判断を要する「法律上の犯罪成立阻却事由」や「刑の減免事由」に該当するか。
規範
1.裁判所が証拠調べを行うべき対象は、訴訟関係人が証拠物又は証拠書類として証拠調べを求める趣旨の下に提出したものに限られる。2.被告人が構成要件的事実を認識していなかったとの主張は、単なる構成要件該当性の否認であり、旧刑訴法360条2項の「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」には該当しない。3.署名行為により直ちに既遂となる犯罪において、後の取消しを理由とする中止未遂の主張は「刑の加重減免の原由たる事実上の主張」に該当しない。
重要事実
事件番号: 昭和24(れ)356 / 裁判年月日: 昭和24年3月24日 / 結論: 破棄差戻
原判決摘示の被告人の供述部分は、寧ろ被告人が假指定の事實を知らなかつた有力なる反證と見るのが相當である。しかるに原判決が被告人のその前後の供述部分を無視抹殺して全然反對の立證趣旨にこれを供したのは實驗則に反して事實を認定した違法があるものといわざるを得ない。
公職追放者である被告人が推薦連署表に署名した事案。原審の記録には、第一回公判期日前から編綴された書類があったが、その作成者や提出目的が不明であり、公判廷において被告人及び弁護人は「他に提出する証拠はない」と述べていた。また、被告人は公職追放者である認識を欠いていたため犯意がないことや、署名後にこれを取り消したため中止未遂に準ずるものであることを主張したが、原判決はこれらについて特段の判断を示さなかった。
あてはめ
1.本件書類は内容や提出目的が不明であり、かつ被告人側が「他に提出する証拠はない」と明言し証拠調べ終了に対しても異議を述べていない以上、証拠調べを求める趣旨で提出されたとは認められない。2.被告人が公職追放者である事実の認識を欠くとの主張は、犯罪の構成要件を欠く旨の主張にすぎず、成立阻却事由ではない。3.署名により既遂となる以上、後の取消しは中止未遂の観念を容れる余地がなく、中止未遂に準ずるとの主張も刑の減免事由には当たらない。
結論
原裁判所が当該書類の証拠調べを行わず、また被告人の主張に対して個別的な判断を示さなかったことに違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
証拠調べの対象となる「提出」の意義を明確にし、訴訟当事者の意思表示を重視する実務慣行を支持する。また、構成要件該当性を争う主張と、違法性阻却事由・責任阻却事由(狭義の成立阻却事由)の区別を明確にしており、判決書における「理由」の記載範囲を画定する際の指針となる。
事件番号: 昭和25(れ)1021 / 裁判年月日: 昭和25年12月20日 / 結論: 棄却
一 A組合の主事であつたことを調査表に記載しなかつたたという公訴事実と、同組合の主宰者であつたことを調査表に記載しなかつたという事実とは公訴事実の同一性がない。 二 調査表に不実の記載をした罪については、不実であることについて犯意を要するのであるが、その犯意は未心的故意をもつて足りる。
事件番号: 昭和24新(れ)1 / 裁判年月日: 昭和25年2月15日 / 結論: 棄却
一 上告人の住所が内閣總理大臣にとり知り得る状況にあつたにかかわらず上告人に通知しなかつたことは、追放令の假指定手續が追放に關する法令の規定する要件を完備していないことになるとの論旨第二點は判例(昭和二三年(れ)第一八六二號同二四年六月一三日大法廷判決參照)にいわゆる追放該當者として指定されたことが無効であるとの主張に…
事件番号: 昭和24(れ)554 / 裁判年月日: 昭和24年8月25日 / 結論: 棄却
一 覺書該當者が公選による候補者を當選せしめる目的で、先ず推薦届出をし次いでその選舉運動をした場合、右一連の行爲のうち、推薦届出の所爲のみを提えて昭和二二年勅令第一號第一五條第一項にいわゆる政治活動をしたものと見ても差支えない。 二 覺書該當者が公選による候補者を當選せしめる目的で、その推薦連署表に署名捺印して推薦届出…
事件番号: 昭和23(れ)1054 / 裁判年月日: 昭和23年9月22日 / 結論: 棄却
本來、公判廷外における訊問に對する供述は、それが其のまま證據になるのではなく、其の調書が書證として證據になるのであり、其の内容は必ず被告人に讀み聞けられ、それに對して不滿があれば、被告人は更に審問することを請求することが出來るのであるから、被告人に對する不通知は、實質上からいえば、そう大した意義のあるものではないといい…