一 覺書該當者が公選による候補者を當選せしめる目的で、先ず推薦届出をし次いでその選舉運動をした場合、右一連の行爲のうち、推薦届出の所爲のみを提えて昭和二二年勅令第一號第一五條第一項にいわゆる政治活動をしたものと見ても差支えない。 二 覺書該當者が公選による候補者を當選せしめる目的で、その推薦連署表に署名捺印して推薦届出をした以上、直ちに右勅令違反の罪は成立し、たとえその後右推薦届出を取消しても、一旦成立した同罪の消長には、何等關係がない。 三 本件勅令違反罪のような所謂法定犯の場合においては犯罪事實の認識の外になおその行爲に反道義性乃至反社會性あることの認識がなければ犯意ありと爲し得ないとの見解をとるとしても、覺書該當者が、政治活動をしてはならないこと、そして公選による公職の候補者のためにその推薦届出又は選舉運動をなすことが所謂政治活動と目さるべきであろうことは常識として通常人の周知するところであり、特に覺書該當者にあつては一層強い意味において然りといい得るのである。從つて覺書該當の指定を受けている被告人等においても判示犯罪事實の反社會性のあることはこれを當然意識していたものといわざるを得ないのである。
一 一連の行爲が昭和二二年勅令第一號第一五條第一項にいわゆる政治活動に該當する場合その一部の行爲を提えて政治活動と見ることの可否 二 覺書該當者が前にした推薦届出を取消した場合と右勅令違反罪の成否 三 昭和二二年勅令第一號覺書該當者の行爲の反道義性及び反社會性の認識
昭和22年勅令1號15條1項,昭和22年勅令1號,刑法第38條1項
判旨
公職追放の覚書該当者が公職候補者の推薦届出(連署)を行う行為は、それ自体で政治活動禁止規定に違反し、既遂に達する。また、行政上の目的から課されるいわゆる法定犯においても、行為の反社会性の認識は通常人の常識として備わっているものであり、故意の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
1. 推薦届出行為のみを捉えて政治活動禁止違反の既遂を認めることができるか。2. 犯罪成立後の推薦取消しが犯罪の成否に影響するか。3. いわゆる法定犯において、行為の反道義性・反社会性の認識が故意(犯意)の成立に必要か。
規範
1. 覚書該当者による推薦届出行為は、それ自体が独立して禁止される政治活動に該当し、後続の選挙運動と一連の行為を構成し得る場合であっても、届出時点で犯罪は既遂に達する。2. 法定犯における故意の成立には、犯罪事実の認識を要する。仮に行為の反社会性の認識が必要であるとしても、公的な禁止事項の認識は通常人の常識として備わっているものと解される。
事件番号: 昭和24(れ)553 / 裁判年月日: 昭和24年5月24日 / 結論: 棄却
一 所論の公職に關する就職禁止、退官退職等に關する改正勅令第一五條第一項は、候補者の届出又は推薦届出に關する連署行爲自体を候補者の推薦届出と同様に取扱い、これを政治上活動に含めたことは、同條の文理解釋上明かである。しかも、同條の規定の趣旨は覺書該當者自身の政治上の活動行爲を禁止するにあるのであるから、いやしくも覺書該當…
重要事実
いわゆる公職追放の覚書該当者である被告人らは、和歌山県教育委員選挙に際し、立候補者の推薦連署表に自ら署名捺印して推薦届出を行った。被告人らは、後に推薦を取り消したことや、行為の反社会性の認識が欠けていたこと(犯意の欠如)を理由に、犯罪の不成立または中止未遂を主張して上告した。
あてはめ
1. 勅令第1号第15条第1項は、推薦届出(連署を含む)を明文で禁じている。被告人らが署名捺印して届出を行った以上、その時点で禁止された政治活動に従事したといえ、既遂となる。2. 犯罪成立後の推薦取消しは、実害の削減を試みた事後の行動に過ぎず、既に成立した犯罪の成否や中止未遂の成否には影響しない。3. 覚書該当者が政治活動を禁じられていることや推薦届出がこれに該当することは、通常人の周知する常識である。したがって、被告人らにおいて自らの行為の反社会性を意識していたことは当然であり、犯意を否定することはできない。
結論
被告人らの推薦届出行為をもって既遂罪が成立し、事後の取消しや反社会性の認識の欠如という主張は、犯罪の成立を妨げない。上告棄却。
実務上の射程
法定犯における故意の帰責のあり方や、犯罪の既遂時期の判断基準として参照される。特に、行政規制違反において「法を知らなかった」あるいは「悪気はなかった」という主張が、常識的判断を媒介に排斥される論理構成は、現代の行政刑罰事案の検討においても示唆を与える。
事件番号: 昭和24(れ)2339 / 裁判年月日: 昭和24年11月17日 / 結論: 棄却
一 覺書該當者が公職に關する就職禁止退職等に關する勅令第一五條により「政治上の活動」を禁止されているのは勿論であり、同條にいわゆる「政治上の活動」とは、原則として政府、地方公共團体、政黨その他の政治團体又は公職に在る者の政治上の主義、綱領、施策又は活動と企画、決定に參與し、これを推進し支持し若しくはこれに反對し、あるい…
事件番号: 昭和23(れ)1862 / 裁判年月日: 昭和24年6月13日 / 結論: 棄却
一 本件被告人を覺書該當者として假指定したことが、中央公職適否審査委員會又は内閣總理大臣の錯誤にもとずいてなされたか否か、從つてそれが無効であるか否かを審判することの權限は、日本の裁判所に屬しない。 二 正當の權限を有する内閣總理大臣が、昭和二二年閣令内務省令第一號第五條第一項の解釋として、本件被告人を假指定したときの…
事件番号: 昭和24(れ)555 / 裁判年月日: 昭和24年7月9日 / 結論: 棄却
一 推薦届出書に署名するにあたり、いわゆる通名をもつてしても右勅令第一五條第一項の「政治上の活動」たるを妨げない。 二 市教育委員會委員の推薦届出に關し、選舉人に對し、右届出書に推薦者としての署名を勸誘し、自からこれに署名する行爲は、昭和二二年勅令第一號(公職に關する就職禁止、退官、退職に關する件)第一五條第一項にいわ…
事件番号: 昭和25(あ)84 / 裁判年月日: 昭和25年2月21日 / 結論: 棄却
原判決が昭和二二年勅令第一號第一五条にいう「政治上の活動」の意義について、最高裁判所の判例に示された解釈に從つて被告人の行為を判断しているときは、たとえ判例の適用あやまつたとしても刑訴法第四〇五条第二號にいわゆる「判例と相反する判断をした」ということはできない。