一 A組合の主事であつたことを調査表に記載しなかつたたという公訴事実と、同組合の主宰者であつたことを調査表に記載しなかつたという事実とは公訴事実の同一性がない。 二 調査表に不実の記載をした罪については、不実であることについて犯意を要するのであるが、その犯意は未心的故意をもつて足りる。
一 公訴事実の同一性のない一事例 二 調査表の不実記載と犯意の要否
昭和22年勅令1号7条1項,昭和22年勅令1号4条,昭和22年勅令1号15条1項1号
判旨
公職追放の覚書該当理由となった事実そのものの存否は日本の裁判権の対象外であるが、調査表不実記載罪の成否を判断するために不可欠な被告人の主観的認識(犯意)の有無については、日本の裁判所に審判権が及ぶ。
問題の所在(論点)
日本の裁判権が及ばない「覚書該当理由となった事実」に関連する調査表不実記載事件において、日本の裁判所が被告人の「犯意(主観的認識)」の有無を審理・認定することができるか、また、不実記載罪における「犯意」の範囲に過失は含まれるか。
規範
1. 覚書該当の理由となった事実自体(存否)については、日本の裁判所は審理権限を有しない。2. しかし、調査表不実記載罪(昭和22年勅令第1号16条違反)の構成要件である、記載事項の存在を認識しながら敢えて記載を隠したという「被告人の主観的認識(犯意)」については、日本の裁判所に審判権が認められる。3. 同罪の犯意は故意犯を処罰する趣旨であり、未必的故意で足りるが、過失による不実記載を故意犯として処罰することはできない。
重要事実
被告人は、公職資格訴追審査のための調査表を作成する際、自らが所属した「A組合」の主事であった事実や「日本国家社会党」との関係、「B会」の広範な事業目的などを記載しなかったとして、昭和22年勅令第1号(公職に関する就職禁止、退官等に関する件)第16条違反(調査表不実記載等)で起訴された。弁護側は、覚書該当理由となった事実は連合国側の判断に属し日本の裁判権に服さないと主張した。原審は、被告人が事実関係につき認識を欠き、過失はあるが犯意(未必的故意含む)が認められないとして無罪を言い渡したため、検察官が上告した。
事件番号: 昭和23(れ)1455 / 裁判年月日: 昭和23年12月23日 / 結論: 棄却
一 昭和二二年勅令第一號(公職に關する就職禁止退官退職等に關する勅令)第一六條第一項第一號に「調査表の重要な事項について……事實をかくした記載をした者」とあるのは、調査表に記載すべき重要な事項について、實在する事實を、その實在することを確認しながら、記載しなかつたものという意味である。この認識の外に特定の事實を他人に知…
あてはめ
覚書該当理由に含まれる事実は、連合国軍最高司令官の権限に基づくものであり、その存否自体を日本の裁判所が再審査することは許されない。しかし、国内法である勅令16条の処罰規定を適用するにあたっては、刑罰の本質として構成要件的故意の有無を確定させる必要がある。この犯意(不実の認識)の有無の認定は、裁判権が制限される対象事実そのものの認定とは別個の法的判断であり、日本の司法権の行使として当然に認められる。本件では、被告人は調査・記憶喚起の義務を怠り、漫然と関係なしと軽信して記載しなかったものであり、これは過失にすぎない。故意犯を処罰する本条において、過失を故意と同視して処罰することは法解釈上認められない。
結論
日本の裁判所は、覚書該当事実に関する被告人の主観的認識(犯意)の有無を審判する権限を有する。被告人に故意(未必的故意を含む)が認められない以上、過失があっても本罪は成立せず、無罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
連合国占領下の特殊な事案であるが、行政上の前提事実について裁判権や審査権が制限される場合であっても、刑事罰を科す際の「故意」等の主観的要件については、日本の裁判所が独自の司法判断をなし得るという法理を示している。
事件番号: 昭和24新(れ)1 / 裁判年月日: 昭和25年2月15日 / 結論: 棄却
一 上告人の住所が内閣總理大臣にとり知り得る状況にあつたにかかわらず上告人に通知しなかつたことは、追放令の假指定手續が追放に關する法令の規定する要件を完備していないことになるとの論旨第二點は判例(昭和二三年(れ)第一八六二號同二四年六月一三日大法廷判決參照)にいわゆる追放該當者として指定されたことが無効であるとの主張に…
事件番号: 昭和26(あ)2230 / 裁判年月日: 昭和26年7月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】昭和22年勅令第1号15条にいう「政治上の活動」は、目的犯のように政治的目的ないし政治的意図を要件とするものではない。政府等の施策活動に関する論議であり、現実の政治に影響を与える行動であれば、主観的な目的の有無にかかわらず同条の活動に該当する。 第1 事案の概要:被告人が行った論議が、昭和22年勅…
事件番号: 昭和26(あ)1560 / 裁判年月日: 昭和26年6月12日 / 結論: 棄却
覚書該当者の政治上の活動は前記法令の禁ずるところであつて、たとえ覚書該当者指定手続に錯誤があり、またはその後その指定が解除されても、一旦覚書該当者として法禁を犯した事実に対しては処罰を免れないのである。
事件番号: 昭和25(あ)84 / 裁判年月日: 昭和25年2月21日 / 結論: 棄却
原判決が昭和二二年勅令第一號第一五条にいう「政治上の活動」の意義について、最高裁判所の判例に示された解釈に從つて被告人の行為を判断しているときは、たとえ判例の適用あやまつたとしても刑訴法第四〇五条第二號にいわゆる「判例と相反する判断をした」ということはできない。