一 証人の陳述中証人が実験した事実、又は実験した事実によつて推測した事項の陳述ではなく、単に意見を表示したにすぎないとみられる部分は、証拠に採用することができない。 二 然るに原判決はその證據説明中にかような證人の意見に過ぎない陳述をも挿入しそれを「然し」という言葉で接續して、その前後の供述の順序を變えて、記録に現はれた供述とは違つた趣旨の摘録をしている。原審第五回公判で裁判長自らも前後二回に亘つて「全然違う」と云つた「法廷におけるAの證言」即ち原判決が證據として舉示する第一審第三回公判調書中におけるAの供述及び前記原審第五回公判における同人の供述と「檢事聽取書中における同人の供述」とは互に相反する證據である。前者は被告人BがC代議士等の民主自由黨えの加盟斡旋方傳言を證人Aに頼んだのではないという事實であり、後者は右加盟斡旋方の傳言を證人Aに頼んだという事實である。かかる相容れない事實から、「Bが暗に(Aに)傳言方を慫慂し因て(Aをして)その旨傳言させた」と判事事實を積極的に認定したのは證據上の理由において齟齬あるものと云はなければならない。從つて論旨はその理由があつて原判決は破毀を免れない。
一 証言中証人の実験した事実と無関係な意見の陳述にすぎない部分の証拠能力 二 證人の供述の趣旨を變えて採證した違法な判決の一例
旧刑訴法336条,旧刑訴法360条1項,旧刑訴法206条1項,昭和22年勅令1號,舊刑訴法410條19號,舊刑訴法360條1項
判旨
証人が公判廷で行った供述のうち、自己の過去の供述と現在の供述に相違がない旨の述懐は、証拠能力のない「意見」に過ぎず、これを用いて相反する証拠から事実を認定することは許されない。
問題の所在(論点)
証人が公判廷において、自己の過去の供述と現在の供述との間に齟齬がない旨を述べる陳述は、証拠能力のある「事実」といえるか。また、相反する供述を不自然に接合して事実認定の基礎とすることは許されるか。
規範
証人は、その実験した事実により推測した事項(現在の刑事訴訟法156条1項の類推)を陳述することはできるが、証拠の同一性や評価に関する抽象的な「意見」を述べることは、裁判所の専権に属する事案の裁断を侵すものであり、証拠能力を有しない。また、供述の順序や文脈を改変し、本来相反する内容の供述を、接続詞を用いて強引に整合させるような証拠の摘録は、証拠法則上の理由において齟齬があるといえる。
事件番号: 昭和24(れ)356 / 裁判年月日: 昭和24年3月24日 / 結論: 破棄差戻
原判決摘示の被告人の供述部分は、寧ろ被告人が假指定の事實を知らなかつた有力なる反證と見るのが相當である。しかるに原判決が被告人のその前後の供述部分を無視抹殺して全然反對の立證趣旨にこれを供したのは實驗則に反して事實を認定した違法があるものといわざるを得ない。
重要事実
被告人Bが政治的活動をしたとして起訴された事案において、原判決は証人Aの供述を根拠に事実を認定した。Aの検事廷供述(Bから伝言を頼まれた)と公判廷供述(頼まれていない)は相反していたが、Aは公判廷で「検事廷の証言と骨子において相違ないと思う」旨の陳述をした。原裁判所は、供述の順序を入れ替え、「しかし」という接続詞を挿入する等の加工を行い、Aの右「意見」を根拠に、検事廷供述の趣旨に沿う事実認定を行った。
あてはめ
証人Aの「検事廷の証言は骨子において相違ない」との陳述は、Aが直接経験した事実ではなく、二つの供述内容を比較・評価した「意見」の表示に過ぎない。証拠の同一性や矛盾の有無は裁判所が裁断すべき事項であり、証拠能力を欠く。原判決は、この「意見」を逆用し、本来相反する供述内容を、供述順序を操作し接続詞で繋ぐことで一つの事実認定へと導いている。これは、実質的に証拠価値のない「意見」を媒介にして、相反する証拠から積極的に事実を認定したものであり、証拠上の理由に齟齬があるといわざるを得ない。
結論
原判決の証拠の摘録及び事実認定の手法は、証拠法則に違反し違法である。原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
証人による自己の供述の評価(「前に言ったことと同じだ」等)は証拠能力を欠く意見であるという点に射程がある。答案上は、伝聞供述や証拠の信用性判断において、証人による抽象的な価値判断が事実認定の根拠とされている場合の違法性を指摘する際に活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)2118 / 裁判年月日: 昭和24年6月13日 / 結論: 破棄自判
一 所論、昭和二三年當裁判所規則第九號(同年當裁判所規則第三五號を以つて一部改正以前の當初規定)の規定中、上告審のみに適用あるい第四條の規定を除けば、すべて從來裁判所又は裁判長の裁量に委せられた事項につきただその裁量の範圍に制限を加えた規定をなしたに過ぎないものであつて、如何なる見地からするも違憲などというべきものでは…
事件番号: 昭和23(れ)1455 / 裁判年月日: 昭和23年12月23日 / 結論: 棄却
一 昭和二二年勅令第一號(公職に關する就職禁止退官退職等に關する勅令)第一六條第一項第一號に「調査表の重要な事項について……事實をかくした記載をした者」とあるのは、調査表に記載すべき重要な事項について、實在する事實を、その實在することを確認しながら、記載しなかつたものという意味である。この認識の外に特定の事實を他人に知…
事件番号: 昭和26(あ)3991 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証人の証言が強要や誘導に基づくものであると認めるに足りる資料がない場合、憲法違反を主張する前提を欠く。適法な手続によって得られた証拠に基づく裁判は正当であり、特段の違法事由がなければ上告は棄却される。 第1 事案の概要:被告人が上告を提起し、その理由として、証人の証言が強要および不当な誘導によって…
事件番号: 昭和23(れ)1054 / 裁判年月日: 昭和23年9月22日 / 結論: 棄却
本來、公判廷外における訊問に對する供述は、それが其のまま證據になるのではなく、其の調書が書證として證據になるのであり、其の内容は必ず被告人に讀み聞けられ、それに對して不滿があれば、被告人は更に審問することを請求することが出來るのであるから、被告人に對する不通知は、實質上からいえば、そう大した意義のあるものではないといい…